SDGsは「大衆のアヘン」であり、「地球温暖化によって地球がヤバい」という辛い現実から目を背けるためのものである。
なぜなら、『人新世』の到来によって環境は壊滅的ダメージを受けており、SDGsにそった行動をとったところで環境を救うことはできず、
「SDGsの考え通りに環境にやさしくしてきたけど、ダメだったよね。」
と、人々を慰める効果しかないためだ。
…といったコトが書かれている著書、『人新世の資本論 著:斎藤幸平』を読みました。
『人新世』とは、
- ヒトによる活動の痕跡が、地球の表面すべてを覆いつくした年代(現代)
という意味で、『人新世の資本論』に書かれている内容を分かりやすく整理すると、
- ヒト(資本主義)によって環境が大きく変化してしまった
- 資本主義の中でどれだけ頑張ったところで、この状況を好転させることはできない
- そこで資本主義にかわる世界を、カール・マルクスの著書『資本論(社会主義の優位さを証明しようとした著書)』を参考に考えていこう
- 具体的には『成長しなければならない』という思い込みを捨てよう(脱成長)
- また、共通財産(水や電気など)は、利益を追い求めることをやめて市民で管理しよう
といった内容です。
(私も含む)多くのヒトは、
「資本主義によってテクノロジーが進歩し、エコになってきている!」
と考えているでしょうが、『現実はそうではない』ということを様々なデータを使って否定していきます。
この著書の内容を100%信じることはできないかもしれませんが、
「いま、世界全体で進んでいるSDGsという方向は、本当に間違っていないのだろうか?」
と考えさせられるきっかけとなる良書で、多くのヒトに読んでもらいたい本でした。
とはいえ、なかなか難解な本でもあるため、この記事では「『人新世の資本論』とは何なのか?」をできる限り分かりやすく、一部を要約しつつ解説していきたいと思います。
世の中のブームに何も考えないまま乗るコトなく、様々な角度から「こんなこと言われているけど、本当にそうなのかな?」と自分で考えることが重要です。
「みんながSDGs、SDGs言っているから、きっと正しいことなのだろう」
と考えるのではなく、
「みんなはそう言っているけど、本当のところはどうなんだろうか?」
と考えるきっかけとなれば幸いです。
『脱成長』とは、ある意味で『セミリタイア』に通ずるところがありますので、非常に考えさせられる内容でした。
私の所感は最後に記載してありますので、ぜひ最後までお付き合いください。
<目次>
- 「人新世の資本論」とは何なのか?分かりやすく要約
- 先進国は地球にやさしい?
- 経済成長すれば経済活動が活発化する
- 電気自動車が普及しても二酸化炭素の排出量は1%しか減らない
- 『脱成長』しても全員が貧しくなるわけではない
- スパコンSEの所感、書評
「人新世の資本論」とは何なのか?分かりやすく要約
ノーベル経済学賞を受賞した気候変動の経済学者ウィリアム・ノードハウスは、
- 経済成長を続けることで、技術が進歩する
- 技術が進歩することで、より気候変動に対応できるようになる
- よって、『経済成長しつつも気候変動対策する』というバランスのとり方が重要だ
と説いています。
この意見は「ムリして気候変動対策しなくても良いんだ!」と考えることができるため人々に受け入れられやすく、実際に2018年にノーベル経済学賞を受賞することになりました。
しかし、そのノードハウスの提唱する二酸化炭素削減率では、2100年までに地球の平均基本が3.5度上昇することになる見込みで、これではアフリカやアジアの途上国を中心に壊滅的なダメージを負うコトになると、著者は言います。
気温の上昇による危機はすでに始まっており、世界中で『100年に一度の災害』と言われる異常気象が起きています。
日本だけで見ても、気温が2度上昇するだけで、
- サンゴは死滅し、漁業への大きな被害がでる
- 夏の熱波で、農作物の収穫にも影響がでる
- 台風がさらに巨大化していく
といった被害が予想されます。
つまり、ノードハウスの「経済成長しながら気候変動対策も進めていく」という考え方では環境を守ることができず、
- いま叫ばれているSDGsは「頑張って対策したよね」感を出すためのポーズに過ぎない
というのが筆者の主張です。
また、
「テクノロジーが進歩すれば、気候変動対策になる」
という考え方にも問題があると著者は指摘します。
先進国は地球にやさしい?
技術力があり豊かな先進国が、大気汚染や水質汚染をしているレベルは比較的低いです。
反対に、貧しい新興国はさまざまな環境問題に直面しています。
ここからは、「テクノロジーが進歩すれば、気候変動対策になる」が正しいことであるようにも見えますが、実際はそうではありません。
先進国は、新興国から資源や労働力を搾取して、それによっていまの立場を手にしています。
具体的には、
- 先進国に送る食材を作るために、熱帯雨林が農園として切り開かれていく
- 先進国に送る木材をを手に入れるために、新興国の森が消えていく
- 先進国に送るレアメタルを採掘するために、新興国の自然が消えていく
といったことが起きています。
つまりは、
- 先進国は『エコ』のように見えるが、実際は新興国に『非エコ』を押し付けているだけ
という状況にあるわけです。
具体例をあげると、
- 「化学肥料の開発によって、貧しい土でも農業ができるようになった」と言われているが、その化学肥料を作るために化石燃料(主に天然ガス)が原料として必要であるため、地球資源をガンガン使用している
- 先進国で人気のアボカドを作るためには大量の水や養分が必要となるため、新興国では生活用水やほかの農作物が犠牲となっている
といった問題が発生しています。
これらのことからも
- 先進国で豊かでエコな生活ができているのは、新興国の犠牲によるもの
であることが分かり、
- 『地球全体』で見ると、エコとは到底いえないような状況にある
と言えるわけです。
また、経済成長すればするほど経済活動が活発化し、2酸化炭素排出量が増える、というワナもあります。
経済成長すれば経済活動が活発化する
上でも書いた通り、世界的には『経済成長』と『二酸化炭素排出量の削減』の両方を実現することを目標としています。
しかし、これが上手くいく見込みはありません。
資本主義では、
- 利益を上げるために、常に生産性向上を目指す
- 生産性が上がれば、労働者の数を減らすことができる
- 失業率が上がると、政治主導で新たな雇用が生まれる
- 結果、経済の規模が拡大していく
といった動きが起きています。
そして『経済”規模”の拡大』は、二酸化炭素排出量を増やすことにつながります。
『エコなテクノロジーが確立して、経済”規模”がそのまま』であれば、二酸化炭素の排出量を減らすことができますが、『エコになった以上に”経済”規模が拡大』しては意味がありません。
そして、実際にそのような状況にあります。
先進国の一部では、二酸化炭素の排出量を減らすことに成功している例はありますが、世界全体で見るとほとんど二酸化炭素の排出量は減っていません。
これは、上で書いた通り、
- 先進国のための経済活動が、新興国で行われている
ためで、新興国の経済規模がどんどん拡大していくことで、新興国の二酸化炭素排出量が増え続けているのです。
(それ以前に、世界一の大国アメリカが、二酸化炭素の排出量を増やし続けてますが…)
具体例を見ていくと、
- 化石燃料のエネルギー化が効率化し、再生可能エネルギーへの投資が増えているのにも関わらず、化石燃料の使用料は増え続けている
- テレビの省エネ化が進んでいるが、同時に大画面化もしているため、消費電力量が増えている
といったことが起きています。
自動車に対しては、
- 『100kgにも満たないヒトを運ぶために、1トンを超える自動車を走らせる』という恐ろしいほどのムダ遣いをしている
といった有名な批判もあり、それどころか『いままで以上に重たい電気自動車』が広がりつつあり、ムダがさらに拡大しています。
「いやいや、車重が重くなっても電気自動車が普及すればエコになるでしょ」と考えている人もいるかもしれませんが、残念ながらそうではありません。
電気自動車が普及しても二酸化炭素の排出量は1%しか減らない
IEA(国際エネルギー機関)によると、電気自動車はこれからも増え続け、2040年には2億8000万台にまで増えると予想されています(現在は200万台しかない)
しかし、これによって削減できる二酸化炭素の排出量は1%しかないと試算されています。
これは、電気自動車になることで、車が走ることで発生する二酸化炭素はゼロとなったところで、バッテリーなどの製造過程で発生する二酸化炭素が増えていくためです。
このことからも、
- いっけんエコに見える新技術であっても、生産過程も含めるとほとんどエコではない
ということが分かります。
よって『経済成長しつつも、技術を進歩させることで環境を守る』という目標の達成は困難であり、「環境を守るためには『脱成長』するしかない」という斎藤幸平さんの提案にいきつくわけです。
とはいえ、『脱成長』と聞くと「みんなで貧しくなるなんてイヤだ」と思う方もいるでしょうが、そうならない方法も筆者は提案しています。
『脱成長』しても全員が貧しくなるわけではない
「脱成長したら貧しくなる」という考え方の以前に、現在の『成長』に重きをおいた資本主義社会であっても、すべての人が『成長』の恩恵を受け、豊かな生活をできているわけでないのは明らかです。
新興国は先進国のために劣悪な環境での労働をしいたげられ、先進国である日本国内であっても貧しい生活をしている人が数えきれないほど存在しますし、
むしろ、多くの人(とくに日本人)は「経済成長して豊かになっている実感なんてないんだけど?」と思っているのではないでしょうか。
で、あるのにも関わらず、一部の成功者は一生かかっても使いきれないほどの資産を手にすることができています。
つまりは、
- 『脱成長』したところで、(一部の人を除けば)貧しくなるようなことはない
とすら言えるのかもしれません。
そして、著者は『脱成長』のアイデアの一つとして、
- 水や電気、医療、教育、インターネットといった『みなが必要とするもの』をコモン(共通財産)として、資本主義から切り離し(利益を無視し)みなで管理する
という方法を提案しています。
こういったことをきっかけに、資本主義から脱していき、じょじょに『脱成長』を広げていくことが必要だと説きます。
この『脱成長』からは、共産主義・社会主義といった『多くの国が失敗してきた社会』をイメージしてしまいますが、筆者の提案は、
- なんでもかんでも国営にするのではなく、市民が直接管理できる社会主義
としており、ここが過去の共産主義・社会主義とは大きく違う点です。
詳しくは『人新世の資本論』を直接読んで頂きたいのですが、これが上手くいけば、
- 脱成長によって環境を守りつつ、人々の幸福を守ることもできる
と言えるのかもしれません。
スパコンSEの所感、書評
といった感じで、『人新世の資本論』の一部を要約して紹介させてもらいました。
私は、資本主義の力を借りて(投資して)セミリタイアしようとしているので、「資本主義から脱却するしかない!」と言われてしまうと、否定せざるをえない立場にあります。
しかし、『脱成長』という考え方には共感するところもあります。
というのもセミリタイアという行為は、ある意味で『脱成長』と同じ考え方にあると思っているためです。
『セミリタイアする』ということは、『サラリーマンを続けていれば手に入る”もっといい暮らし”を捨てる行為』であるためです。
まさに『脱成長』と言えるでしょう。
とはいえ、
- 『セミリタイアして贅沢な暮らしを諦める』という選択ができるのは、資本主義によって人類が進歩してきたため
といことも忘れてはいけません。
具体的には、
- 安価で良質な衣料品、食料品があふれている
- 無料でYoutubeやネット記事をいくらでも見ることができる
- 月数百円払うだけで、Netflixなどの良質な動画をいくらでも視聴できる
といった『ほとんどお金をかけなくても、満足のいく生活が送れるコンテンツ』が大量に存在しているのは、テクノロジーの進歩のおかげです。
また、
- 自宅にいながら、自分の趣味をYoutubeやブログで発信しているだけで、お金を稼ぐことができる
- 知識や技術をほとんど必要としない『インデックス投資』を使えば、高い確率で資産を増やすことができる
といった『気軽にお金を手に入れられる術』が使えるのも、現代だからこそです。
要約した『人新世の資本論』は、新書としては異例なほどのベストセラーとなっていますが、これは『進化したテクノロジーのおかげで、満足のいく生活を送れている人が増えていきた』からなのかもしれません。
実際に周りを見ても、
「もっと豊かになろう!」
「ビジネスマンとして成功するんだ!」
と、強い成長志向を持っている人はそう多くはないと感じます。
「資本主義をやめよう」とまで言うつもりはありませんし、『人新世の資本論』の内容すべてを肯定することはできませが、
「脱成長なんてバカげている!」
と一蹴してはいけない気がします。
また、『ここ20年ほど日本経済は停滞している』なんてことを最近よく耳にしますが、ある意味で『日本は世界にさきがけて脱成長している』なんて言えるのかもしれません。
そうすると、もしかしたら
- 経済成長しなければならない。
- 成長していないから日本はダメだ。
という考え方を脱却し、
- 成長しなくても豊かに暮らせるならいいじゃない
という考え方があたり前になれば、日本は『いい国』になるのかもしれませんね。
とはいえ、脱成長によって
- 国際競争力の低下
- 海外製品の高騰
などなど課題も出てくるでしょうから、『日本だけ脱成長する』のは厳しい結果をまねくことにもなりそうです。
いずれにせよ、
「成長していないからダメだ!」
「成長していては環境を守れない!」
と、決めつけることなく、それぞれのメリット・デメリットを理解しておきたいものです。
『人新世の資本論』良い本でした。
本記事の内容が、本ブログの賢明なる読者達に届けば幸いです。
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