このブログでは何度か「労働分配率は下がって、企業の利益が増えているぞ!」との事実を紹介してきました。
これによって、トマ・ピケティの言う『r > g』、つまり『資本収益率は、経済成長率(≒労働によって得られる収益)よりも大きい』との調査結果が現在でも有効であることがよく分かります。
とはいえ、これはあくまでの過去の話であり、今後もそうなると言い切ることは難しいですが、IMFからそのあたりを予想するのに役立つであろう
- なぜ労働所得は世界所得に占める割合が低いのか?理論と実証的証拠(Why Is Labor Receiving a Smaller Share of Global Income? Theory and Empirical Evidence)
という研究論文が出ておりましたので、ご紹介したいと思います。
ざっとまとめてしまうと、
- 先進国は、ITやロボットなどによる自動化によって賃金を支払う先(労働者)が減少し、企業の利益が大きくなった
- 新興国は、利益の大部分をグローバル化により大手メーカが参入。利益の大部分を大手メーカが持っていくこととなった
とされています。
では、詳しく見ていきましょう。
先進国
先進国の労働分配率が下がっている理由はシンプルです。
自動化によって、代替可能な労働者(主には事務やライン工などの中間技能労働者)が置き換えられ、人が利益を生み出すのではなく、資本(機械など)が利益を生み出す構造がより進んでいるからです。
これによって、人費を削りつつも売上を大きくすることができるわけですから、労働分配率が下がるのも当然です。
先進国の人件費は高いため「これを削りたい」というニーズは強いです。
よって、そのニーズにこたえるべく自動化ツールの開発が急激に進み、多くの企業がそれへの投資を加速させています。
この状況は『資本深化(Capital Deepening)』と呼ばれ、労働者一人当たりの使う資本が増え続けている(一人の人間が、多くのロボットやシステムを使って効率的に労働するようになっている)ことによって、少数が大きな利益を生み出せる構造となってきています
これによって大きな利益を上げている企業の代表が、
- Microsoft
- Apple
- Meta
といった企業です。
自動車メーカのような企業は、
- 大きな利益を上げるためには、多くの自動車を生産しなければならない
- 多くの自動車を生産するためには、多くの従業員を雇わなければならない
という制約が残り”がち”ですが、これら企業(Googleなど)は
- 物理的な制約が少ない(システムの配布に制約はない)ため、少人数でも超巨大市場(世界全体)に打って出ることができる
ため、労働分配率を下げやすい構造にあります。
これは、強い期待が寄せられている『AI』に関しても同様であると考えられるため、引き続き労働分配率が下がっていくストーリーがメインシナリオだと言えそうです。
新興国
新興国で労働分配率が下がっている主な原因は、グローバル化であると分析されています。
2000年代初頭までは『グローバル化=労働者有利』となると予想されていたのにも関わらず、です。
古くは、
- 先進国は賃金が高いが、新興国では安く労働が買える
- グローバル化に伴い、多くの先進国企業が新興国に進出(工場の建設など)し、多くの労働者を雇う
- 新興国の賃金も上昇し、労働者が潤う
と考えられていました。
実際に、現在では、先進国にある多くの企業が新興国に進出することで多くの労働者を雇うことにはなっています。が、労働分配率は下がりました。
その理由は、
- 工場建設に合わせて最新設備が導入されたため、予想より多くの労働者を必要としなかった
- 利益の多くは、生産過程でなくブランドや知財、設計によって生まれるため、新興国に落とされなかった
という現象に加えて
- グローバル化によって、工場移転も容易にできるようになった(賃金が上昇すると、工場がもっと賃金の安い新興国へ移転してしまう)
といったことも挙げられます。
2000年~2010年頃に『世界の工場』と言われていた中国が、賃金の上昇によって工場の建設先として選ばれなくなっていた現象が、まさにそれですね。
高技能労働者になろうぜ…?
というわけで、
「テクノロジーの進化、エコシステムの進化などによって生産性が向上しつつある世界ですが、その利益が労働者には還元されづらい構造にあるぞ!」
というお話でした。
もちろん、これが全ての労働者に当てはまるわけではなく、一部の優秀な労働者などは『賃金の上昇』の恩恵を受けることができるはずです。
実際に、高技能労働者(High Skill)の労働分配率は上昇しています。

ただし、この『一部の労働者』がAIの進化によってどこまで狭められていくのか、現時点では不明としか言えず、もしかすると『ほとんどの労働者にとって厳しい時代』がくるのかもしれません。
ここら辺は「不明」としか言えないのが残念です。
とはいえ、テクノロジーの進化がネガティブな結果ばかりを生むことはなく、この進化によって、
- 生産効率の向上(短時間労働への移行)
- より便利なツールの登場
- サービス・モノの低価格化
などが進み、とても住みよい世界がやってくるとも考えられます。
実際のところ、今後どうなっていくかを予想することは難しいですが、
- 労働しつつ、資本サイドにも立つ(株主になる)ことで、rからもgからも利益を手に入れる
ことが正解である可能性は高いのではないかと想像します。
本記事の内容が、本ブログの賢明なる読者達に届けば幸いです。
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