更新日:2021/4/17
「アメリカの生活保護は厳しい」と聞いたことがある方は多いかと思いますが、実際にどの程度のものなかの確認していきたいと思います。
厳しい支援制度を導入することは、
- 支援に頼らず、自力で生きていく人々を増やす
- 政府の負担を減らす
と良い面もありますが、
- 本当に救済されるべき弱者には厳しい
という問題もあります。
アメリカが、このバランスをどのように取っているか、理解頂ければと思います。
<目次>
アメリカにおける生活保護の制度について
アメリカの場合、日本の生活保護にあたる制度は、『貧困家族一時扶助(TANF) 』と言われるもので、その内容は州によって違うものの、
- 18歳未満、または妊婦のいる貧困家庭
- 3人世帯であれば、月の収入が約7万円以下
- 換金可能な資産が20万円以下(仕事用の自動車等は含まない)
といった条件を満たす世帯を対象者とし、
- 3人世帯の場合は、月額7万円程度を給付
をベースに、
- 食品購入用の補足的栄養支援(旧フードスタンプ)
- 低所得者光熱費補助プログラム
- 住宅バウチャー制度
- メディケイド(低所得者向けの医療保険制度)
といった、『用途に応じた扶助制度』が受けられるようになっています。
日本の生活保護制度の場合は(条件によって大きく変わりますが)
- 3人世帯の場合は、月額20万円程度を給付
となるので、『アメリカの制度は、比較的きびしい』と言えそうです。
また、貧困家族一時扶助(TANF)が、日本の生活保護と大きく違う点としては、
- 1回の受給につき24か月までしか受けられない
- 24か月の受給後は、特別な事情がないかぎりそれ以降36か月は受給できない
- 一生涯で、合計60か月しか受給できない(子供のみの場合は除外)
と、『貧困家族”一時”扶助』の名が示す通り、『一時的に、貧困に陥っている家庭を助ける制度』となっています。
つまり、
「(失業などにより)貧困に陥っているのであれば、子供のためにも給付金を出すので、24か月以内に仕事を見つけるように。」
というのが、この制度の趣旨となっています。
さらに、この制度は州が独自の裁量権をもっているため、例えば
- 給付金を受け取っている段階であるのにも関わらず、子供を出産した
- つまり、家庭の支出が増えるような行為を行った
- つまり、給付金を受けているのにも関わらず、生活を支える努力を怠った
といったケースでは、『給付金を取りやめる』といった判断を下されることもあるのも大きな特徴です。
と、基本的には厳しい制度ではあるものの、高齢者や障碍者といった『就労することが難しい世帯』への扶助制度は別途もうけられており、
- 単身で約8万円/月
- 夫婦で約12万円/月
の給付が受けられます。
また、ここまで紹介した制度では『致し方ない理由がない限り給付金を受け取ることができない制度』ばかりでしたが、
これらを受けるための要件を満たしていない人にとって『最後の砦』というべき『一般扶助(GA)』という制度もありますが、給付金の金額は、ここまでの扶助制度に比べて低いものとなっていますし、この制度を準備すらしていない州もあります。
なお、(日本の生活保護にあたる)アメリカの代表的な扶助制度である『貧困家族一時扶助 』は、1997年に成立したもので、それ以前は『扶養児童支援』という、今よりも『ゆるい制度』でした。
扶養児童支援から貧困家族一時扶助への移行
この『扶養児童支援』は、1935年にニューディール政策の一環として作成され、
- 父親が亡くなった世帯、または父親が働けなくなった世帯が対象
- 子どもの人数に応じた現金を給付
- 1994年には、平均で1世帯当たり420ドル/月を給付
となっていました。
しかし受給者数は増え続け、1994年には
- 500万世帯が受給対象
- 子どもの8分の1を超える児童が受給
と政府の負担が大きくなってきたことと、
- 扶助制度に依存することで、対象者が貧困から脱出することを阻害している
という批判があったことをきっかけに、制度の見直しがはかられました。
というもの、この扶養児童支援制度は、主にシングルマザーを対象とした制度であるわけですが、この制度によって
「無職のシングルマザーだけど、制度を利用すれば何とかなるからいいか」
という考えを生み、結果として貧困に陥るシングルマザーの数を増やしているという懸念があったためです。
そこで、1996年にビルクリントン政権が、『個人責任就労機会調停法』を可決し、貧困家庭を救済する制度が、より厳しい『貧困家族一時扶助』へと変化したわけです。
個人責任就労機会調停法とは
その『個人責任就労機会調停法』とは、
- 『助成制度によって貧困に陥る人が増える』という悪循環を断つ
という思想のもと立ち上げられた制度で、一部前述した通り、
- 一生涯で60か月しか助成金を受け取れない
- 1回の受給につき24か月までしか受けられない
- 養育費を支払わない親への強制力をもった徴収
といった厳しい制約が追加されました。
これによって、1990年代後半には、失業率を下げることに成功し、助成金による政府の負担も減少しました。
とくに、(古い制度では扶助の対象となりやすかった)シングルマザーへの影響は大きく、就業率が1993年の58%から、2000年には75%に上昇しました。
見方によっては「シングルマザーにも労働を強制する厳しい制度だ」とも言えますが、『個人責任就労機会』という名称が表す通り、『一人一人が責任をもって就労すること』いう、『あたり前』とも言える制度を採用し、
それによって就労者を増やし、政府の負担を減らすことに成功したのは事実です。
日本には『生存権』という『国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』がありますが、アメリカには生存権に当たる憲法がありません。
よって日本には、『(働く能力があったとしても)生活保護だけで生活していく人々』を許してしまうことになっているわけですが、アメリカでは『自力で生きるのが前提』となっているために、そういった人々の発生が抑えられています。
アメリカ憲法のキモである『自由』≒『自己責任』が、この制度にも表れているわけです。
ある種、『弱者切り捨て』とも言われてもおかしくに内容ではありますが、そうすることによって国力を底上げているわけです。
ただし、先日取り上げたように401kプランでは『リスク取ってでも資産を増やす設定がデフォルト』となっているため、『自己責任』とは言いつつも、国民を守るための制度も充実しています。
ここら辺が『アメリカは強い』と言われる要因のひとつではないかと思います。
出典
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