アラスカ州のすべての住民には、無条件で1982年から毎年配当金が配られており、2019年には一人当たり年間1,600ドル支払われました。
4人家族であれば6,400ドル(約86万円)です。
アラスカは、石油という『限りある資源』から収入を得ているため、
- 石油が枯渇してしまうと、これまでのアラスカ住民だけが石油からの利益を受け取ることになってしまうので、将来のアラスカ住民にも石油の利益を分配できるようにしよう
と考え『アラスカ永久基金』を設立しました。
言い換えると、
「自分たちばかりにお金を配るのではなく、将来のアラスカ住民たちのためにお金を残しておこう!」
ということになります。
「自分達さえよければ、若者や子どもたちなんてどうでもいいんじゃい!」
と言う人間には見習って欲しいものです。
いや、まじで。
アラスカはアラスカ永久基金によって
- 出生率の上昇
- 貧困生活者の減少
- 窃盗事件の減少
といったメリットがあったということが、論文などによって報告されています。
というわけで、自分本位な人たちにも向けて『アラスカ州のベーシックインカム』とも言われるアラスカ永久基金を紹介したいと思います。
なお、個人的には
「日本でもGPIFが頑張ればこれに近いことができるんじゃないのか?」
と思っているので、そこら辺に関しても考察していきたいと思います。
<目次>
- アラスカ州のベーシックインカム『アラスカ永久基金』
- アラスカ永久基金の効果
- 日本における『アラスカ永久基金』
- アラスカ永久基金(ベーシックインカム)の成り立ち
- まとめ:アラスカ永久基金(ベーシックインカム)を紹介させてもらいました
アラスカ州のベーシックインカム『アラスカ永久基金』
アラスカ永久基金は、主に石油採掘によって得られた利益が投入されており、2023年1月末時点で770億ドルの資産を持っており、これまでに184億ドルのリターンをあげてきています。
アラスカ永久基金のポートフォリオ
そのお金は、世界中の株式・債券・不動産などに投資されており、分配は以下の通りです。
(2023年の目標配分)
非上場株式にも結構積極的に投資をしており(全体の17%)、2022年実績では17.6%のリターンという素晴らしい実績をあげています。
地域別だとこんな感じです。
文字が小さいので上位だけ列挙すると、
- アメリカ :72%
- ヨーロッパ: 8%
- アフリカ : 5%
- アジア(日本除く):4%
- イギリス : 3%
となっています。
アラスカ永久基金の目標&リターン
この基金は、(インフレ率プラス)年利5%リターンを目指しており、基金ができてからの38年間の実績はそれを大きく上回っています。
(青棒以外はベンチマークとかなので無視)
年別のリターンはこんな感じ。
その結果、アラスカ住民に現金を配りつつも、基金の資産は下グラフのように増え続けています。
アラスカ永久基金の効果
さて、『無条件で一人当たり1600ドルを給付する』というのは世界でも類を見ない制度であるため、様々な機関によってアラスカ永久基金の効果が研究がなされています。
例えば、ニューヨーク市立大学のNishant Yonzan 、 Laxman Timilsina 、 Loyola Marymount 、 Inas Rashad KellyらによるNBER(全米経済研究所)の2020年1月のレポートでは、
- アラスカ永久基金が始まった1982年から、特に20歳から44歳の女性グループの出産機会が増え、出産の感覚が短くなっている(10代の母親は増えなかった)
- 全体としては、出生率が13%以上増加している
ということが報告されています。
(Economic Incentives Surrounding Fertility: Evidence from Alaska's Permanent Fund Dividend)
また、アラスカ大学アンカレッジ校の Matthew Berman と Random Reamey による2016年の報告では、
- アラスカ永久基金がなければ、貧困層の人口が25%増えていたであろう
という研究結果が報告されています。
(Permanent Fund Dividends and Poverty in Alaska)
さらに、シカゴ大学の Damon Jones と ペンシルベニア大学の Ioana Marinescuによると、
- アラスカ永久基金からの配当があっても、人々が就労を避けることはない
- むしろ、パートタイムによる就労が増えた
ということが報告されています。
(The Alaska Permanent Fund is an amazing true socialist miracle)
これは、ベーシックインカムのメリットとしてよく語られる
- 就労以外からの収入があるため、「低賃金であっても魅力的な仕事」に就く人が増える
といった効果があったためだと考えられます。
ベーシックインカムのない世界では、自分のやりたい仕事があったとしても、収入のために『やりたくはないが収入の良い、安定した仕事』を選んでいる人が多くいます。
しかし、ベーシックインカムによって生活の安定がある程度保証されるため、「収入よりもやりがい」によって仕事を選ぶ人が増えた、と考えられます。
また、同じくアラスカ大学アンカレッジ校のBrett Watson、 Mouhcine Guettabi、Matthew Reimer による2018 年のレポートによると、
- 窃盗が減少した
ということが報告されていますが、
- 配当金が配られてからの数日は、薬物乱用による事件が増えた
というデメリットも報告されています。
配当金が配られることで、多くのメリットがあるものの、すべての人が「正しいお金を使い方」をするとは限らず、ここに関してはどうしようもないところなのかもしれません。
ただし、これら研究は
- アラスカの実績
- ベーシックインカムを導入していないケースのアラスカの予想
を比較したものであるため、この『予想』が間違っていれば、結果も違う可能性があることには注意が必要です。
例えば、出生率の調査に関しては、ワイオミング州、ハワイ州、ワシントン DC の加重平均で算出したデータを『アラスカの予想』として使用しています。
ただし、様々な機関によって研究されていますが、同様の結果が出ていることから、疑うよりはそれほどないかもしれません。
日本における『アラスカ永久基金』
と、いった感じで、『アラスカ永久基金(ベーシックインカム)』はいいことづくめに見えるので、
「日本にも導入してくれないかな~」
なんてことを思うわけですが、これを実現するには財源が必要です。
アラスカのケースでいえば、
- 『石油事業による利益』によって基金を立ち上げ、投資によるリターンを配り続ける
ということで、半永久的にお金を配り続けることができるようになっています。
日本で『同じようなモノ』を考えると、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が思い出されます。
GPIFはおおよそ、200兆円の資産を運用しています。
全期間(2001年~)の平均の収益率は3.38%となっています。
つまり、毎年6.8兆円のお金が手に入ることになります。
これをそのまま1.25億の日本人にくばると、一人当たり年間5.4万円もらえることになります。
ありがたいことは確かですが、この程度では
- 収入よりもやりがいで仕事を選ぶ人の増加
- 出生率の増加
なんてことは起こらないでしょう。
しかし、GPIFの資産がいまのペースのまま増え続ければどうなるでしょうか。
過去のデータを元にざっくりと
- GPIFの元本は毎年5兆円ずつ増えていく
- 運用によるリターンは年3.38%
- 取り崩しはしない
とした上で、資産の推移をグラフにすると、
といった感じで推移していくことになります。
これをベースに、
- ○○時点から運用リターン(総資産の3.38%)をベーシックで配るようにしたら、国民一人当たり年間いくらもらえるのか?
をグラフにしたものがこれです。
これは、例えば
- 2050年までGPIFの資産の取り崩しをしなければ、それ以降は国民一人当たり19.3万円のベーシックインカムを毎年受け取れるだけの財源ができる
- 2075年までGPIFの資産の取り崩しをしなければ、それ以降は国民一人当たり50万円のベーシックインカムを毎年受け取れるだけの財源ができる
- 2095年までGPIFの資産の取り崩しをしなければ、それ以降は国民一人当たり100万円のベーシックインカムを毎年受け取れるだけの財源ができる
なんてことになります。
2050年まで我慢すればもらえる『毎年19.3万円』は、アラスカ永久基金に近しい金額となっており、ここまでくれば出生率の上昇など、同じような効果が期待できるでしょう。
また、2095年まで我慢すればもらえる『毎年100万円』があれば、「収入なんかよりもやりたい仕事をするんじゃい!」なんて人が結構出てくるような気がしています。
少なくとも私はサラリーマンをやめるでしょう。
そうなれば、
- 上手くいかないかもしれないけど起業しよう
- 誰も買ってくれないかもしれないけど作家になろう
- 誰も聞いてくれないかもしれないけど作曲家になろう
と、「無難にいきたい」と考える人々が避けがちなクリエイティブな仕事をする人々が増え、チャレンジする人が増えた分だけ成功する人も増え、日本が素晴らしい国になるかもしれません。
もちろん、これは完全なる机上の空論なので、こんなことが実現する可能性は低いでしょう。
- インフレが急激に進むかもしれない
- GPIFが運用で失敗するかもしれない
- GPIFの資金をもっと早く取り崩さなければならなくなるかもしれない
といった『かもしれない』があるだけでなく、ベーシックインカムが実現できたとしても
- ベーシックインカムを複雑な制度にし、その制度を実現するために多くの人を雇い、そこで多くのお金が消えていき、国民の手元に届く配当金はわずかしか残らない。
なんてことも考えられますし、それ以前に
- 『年金のために運用しているGPIFの資金を全国民に配る』なんてことは許容されないだろう(年金受給者が損をする)
という大きな問題があります。
とはいえ、例えば
- GPIFの資金をごく一部を年金以外の運用に当て、もっと長期間運用すれば、100年、200年後にはベーシックインカムが実現できるかもしれない
なんてことを考えられないでもありません。
もちろん、それを実行するのであれば現代を生きる国民が犠牲になることになりますが、「将来世代のために自らは犠牲となってもいい!」と思う人が増えなければ、永遠に老人優遇&若者貧困が続くだけです。
アラスカ永久基金(ベーシックインカム)の成り立ち
それでもアラスカ永久基金の成り立ちを見れば、「実現できるかも」なんていう希望が見えるかもしれませんので、少しばかし紹介しておきます。
アラスカでは1959年にアラスカ州として独立し、1970年ごろから石油が採掘されるようになりました。
それによってアラスカ州は急激に豊かになり、当初はアラスカ州のインフラなどの費用として使われていました。
しかし、1976年には、
「石油資源は有限なので、将来のアラスカ住民のためにも利益を残るようにしておこう」
という多数の有権者の意見によって、アラスカ永久基金の検討が始まりました。
ただし、アラスカ州の憲法では基金を運用することができなかったため、憲法改正のための住民投票が行われ、75,588対38,518で可決、憲法改定&アラスカ永久基金が設立されることとなりました。
(『石油によって得られる利益の25%以上を基金に投じる』と規定された)
1977年には、アラスカ永久基金へ734,000ドルの初めての入金があり、当初は『ほぼ債券』で運用されていました。
1980年には、アラスカ永久基金が政治的圧力を受けないよう『アラスカ恒久基金公社 (APFC) 』を設立し、そこで基金が管理されるようになり、この時点で9億ドルの資金が投入されていました。
そして、1982年に初めて1000ドルの小切手がアラスカ住民に配られました。
その後、1990年頃から株式への投資も始め、大規模な基金へと成長していくこととなりました。
つまり、
「自分たちの利益は減ってもいいから、将来のアラスカ住民に分配しよう!」
と考える人々が多かったからこそ成り立ったといエピソードに、色々と考えさせられますね…。
自分の幸福を一番に考えるのは誰にとってもあたり前のことなので「他人の幸せが、自分の幸せ」なんて感じる人が多いんでしょうね。
なお、いまのアラスカ永久基金の事務局長はDEVEN MITCHELLという方で、私はアルマゲドンのシャープ大佐に似ていると思います。
または、プリズン・ブレイクのマホーン。
まとめ:アラスカ永久基金(ベーシックインカム)を紹介させてもらいました
といった感じで「アラスカ永久基金」を紹介させてもらいました。
これをこのまま再現することは難しいかもしれませんが、落ち行く日本のヒントにはなるのではないでしょうか。
とにかく「自分達よりも未来の世代のために」という考え方に感銘を受けました。
こういった考えの人が増えれば、世界は大きく変わるかもしれませんね。
ちなみに、個人的には
「増税してでもいいからベーシックインカムを実現してくれ」
と考える派なのですが、今回は「アラスカ永久基金」を例にしていたので、このような内容になりました。
日本は、これまでのやり方では衰退していく一方なのは自明の理なので、そろそろ大きな大転換が必要なのかもしれませんね。
とはいえ、それができる可能性は高くないので、
- 自力でインデックス投資をして、自分のためのベーシックインカムを作り上げる
ことに専念したいと思います。
もっと良い世の中になってもらいたいものです。
出典:
- Financial and Performance Reports-APFC
- Alaska Permanent Fund
- Alaska Permanent Fund: A basic income is causing parents to have more kids
本記事の内容が、本ブログの賢明なる読者達に届けば幸いです。
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