最終更新日:2021/3/8
「自信過剰により、専門家の予想は、統計による予想に劣る」
「最も称賛される企業にランクされた企業の株式リターンは、最下位あたりにランクされた企業に劣っていた」
などなど、投資に使えそうな研究が目白押しの『ファスト&スロー あなたの意志はどのように決まるか?上巻』の一部を要約してお伝えしていきたいと思います。
ファスト&スロー前書き
『ファスト&スロー』の筆者は、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンで、『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』といった『心理学 x 経済学(行動ファイナンス理論)』の研究をしていることでも有名な心理学者です。
タイトルである『ファスト&スロー』とは、
- ファスト:直感的に意思決定する仕組み(以後『システム1』と記載)
- スロー :考えた上で意識決定する仕組み(以後『システム2』と記載)
のことを指しており、
- 影響力が強く、間違った判断を選びやすいシステム1
が、何を材料に、どのように判断しているのかを本書の中で解説していきます。
例えば、
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『緑 緑 緑 緑 赤 赤』の6面で構成されているサイコロがあったとして、
サイコロを20回振ったとき、次に列挙する例のうち『もっとも起きそうなサイコロの目の順番』をひとつ選んでください。
- 赤 緑 赤 赤 赤
- 緑 赤 緑 赤 赤 赤
- 緑 赤 赤 赤 赤 赤
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という問いに対して、直観的に「2番!」と回答をする人が多くいます(カーネマンの研究によると3分の2の人)が、それは不正解です。
サイコロの面の3分の1は赤であることから「1と3は赤が多すぎる」と考え、『バランスの良い2』を直感的に選びがちですが、
よく見ると2は、1の先頭に緑を足しただけであることから、『1が最も出る可能性の高い順番』であることは明らかです。
この問いに、例えば『正解すれば100万円』といった条件付けがされていれば、多くの人はシステム2を使って熟考して正解を選べるかと思いますが、システム1で直感的に回答してしまうと誤った判断をしてしまいます。
そして、この『誤った判断を下しやすいシステム1』は、日常生活の判断のほとんどを担当しているため、『気を付けなければ重大なミスを犯しかねない』というわけです。
さて、前段が長くなりましたが『ファスト&スロー』は
- システム1がどのようなミスを犯すのか
- どうすればミスを犯さずに済むのか
を学ぶことで、『人生で正しい判断をくだすための技術』を身に付け、生活を豊かにしすることができるヒントを与えてくれます。
では、これより著書の一部を要約してお伝えしていきたいと思います。
注意力には限りがある
本書の中では、以下の実験結果を紹介しています。
白シャツチームと黒シャツチームがそれぞれバスケットボールをパスし合う様子を撮影した短い動画を制作した。
そして被験者にこの動画を見せ、黒チームは無視してよいから、白チームのパスの回数を数えるよう指示する。
何人もが常に動きながら2個のボールが飛び交っているので、この作業は難しく、被験者は注意力を集中しなければならない。
動画が半分くらいまで進んだところで、ゴリラの着ぐるみを着た女性がコートを横切り、胸を叩き、そして立ち去る。
ゴリラは9秒間画面に登場している。
ところが述べ数千人の被験者がこれを見たにもかかわらず、約半数が何も異常に気付かなかったのである。
(中略)
この作業をせずに動画を見たグループでは、ゴリラを見落としていた人は一人もいなかった。
『ものを見たり聞いたりすることで物事を察知する』のはシステム1の仕事であることから『システム1は明らかな異常すら見落とすことがある』とこの実験で証明しています。
つまり、何かに集中しているときには、身近で重大なことが発生したとしても全く気付かない危険性があるということです。
というのも、システムは1は『最短』で『最小の努力』で答えを出す『効率重視なシステム』となっているためです。
そして、実際に多くのケースでシステム1は正しい答えを導き出します。
しかし、システム1は『効率的なシステム』であるがゆえに、『システム1が想定していない世界(コートをゴリラが横切るような、異常なケース)』には対応できません。
また、システム1は『プライミング効果』により、簡単に結論に影響が及ぼされることも分かっています。
おそるべしプライミング効果
プライミング効果とは、プライム(先行刺激)によって、関連した思考、動きを選びやすくなってしまう効果のことです。
具体的には、
『忘れっぽい』『しわ』『ハゲ』など、高齢者を連想させる言葉を見せる(プライム)ことで、『それら単語を見た人々は、それ以降の歩く速度が低下する』という実験結果を『ファスト&スロー』で紹介しています。
また逆に、『しばらくゆっくり歩くように指示された学生』は、『それ以降は『高齢者に関連する単語』を通常より早く認識するようになった』ともしています。
「無理にでも笑顔を作れば楽しい気持ちになる」と聞いたことがあると思いますが、これもプライミング効果によるもので、行動が思考を誘導するわけです。
『ファスト&スロー』の中では、これと似たような『ハロー効果』も紹介しており、これによって『企業のCEOが優秀かどうかを誤って判断してしまっている』と述べています。
ハロー効果による思い込み
本書の中では、スイスの経営学教授ローゼンツヴァイクによる調査を紹介しており、
ビジネス書は大きく2つのジャンルに分われている。
第一は、経営者あるいは企業の成功または失敗の物語である。言うまでもなく、成功が多数派、失敗は少数派である。
第二は、成功した企業とさほどでない企業を比較分析するタイプである。
そのうえでローゼンツヴァイクは、(幻の)確実性にすがろうとする読者の期待に、二つのタイプのビジネス書がどう答えているかを調べた。
そして、どちらのジャンルのビジネス書もリーダーの個性や経営手法が業績におよぼす影響をつねに誇張しており、したがってほとんど役に立たないと結論づけている。
としています。
企業の成功には『運』が大きくからんでおり、CEOの手腕だけで決まるわけではありません。
しかし、企業が成功すると『CEOの優れた能力のおかげだ』とCEOの高評価を”後付け”してしまいます。
これは特に、無茶なギャンブルに出て成功する将軍や起業家に当てはまり、『運よくギャンブルに勝利したリーダー』であったとしても、
「あのリーダーには先見の明があったため、普通に人には『リスクのある行為』に見えるものでも、あのリーダーにはチャンスに見えたのだ!」
と、評価されることが多いです。
これは、株式市場にもよる当てはまる話で、暴落の翌日に
- ○○氏が○○と発言をしたことによって失望売りが広がった
- ○○の決算発表がきっかけとなって暴落した
などなど、納得できてしまう『暴落の理由』が語られますが、これは『暴落をきっかけに、暴落した理由を探した』ものであるため、ただの『後付けの理由』である可能性が高いです。
『ファスト&スロー』では、これらを証明するため『ビジョナリーカンパニー』という著書をあげた実例を紹介しています。
この本はさまざまな産業のライバル企業を2社1組で18組取り上げて分析しており、各ペアでは必ず一方がめざましい成功を収めている。
分析は、企業文化、戦略、経営手法などさまざまな角度から行われている。
「世界のあらゆる企業のCEO、マネジャー、そして起業家は本書を読むべきだと信じる」と著者は豪語する。
…中略…
運が大きな役割を果たす以上、成功例の分析からリーダーシップや経営手法のクオリティを推定しても、信憑性が高いとはいえない。
たとえCEOがすばらしいビジョンとたぐいまれな能力を持っているとあなたが知っていたとしても、その会社が好業績を挙げられるかは、コイン投げ以上の確立で予測することはできないのである。
『ビジョナリーカンパニー』で調査対象になった卓越した企業とぱっとしない企業との収益性と株式リターンの格差は、大まかに言って調査期間後には縮小し、ほとんどゼロに近づいている。
冒頭でも挙げた
「最も称賛される企業にランクされた企業の株式リターンは、最下位あたりにランクされた企業に劣っていた」
という事実からも、『優秀な企業』『そうでない企業』を見極めることが難しいだけでなく、投資先の企業を選ぶことの難しさがよく分かります。
さらに、『投資先を選ぶのは難しい』という事実は、
- 専門家になればなるほど、より難しくなる
という研究結果もあります。
専門家は自信過剰によって未来を予想する能力が低下する
『ファスト&スロー』では、
「政治・経済動向に関する評論と助言の提供」で生計を立てている評論家284人にインタビューし、専門とする分野とさほど知識を持っていない分野の両方について、いくつかの出来事がそう遠くない将来に起きる可能性を予想してもらった。
たとえば、ゴルバチョフはクーデターで失脚するか、アメリカはペルシャ湾岸で戦争に突入するか、次の新興市場国としてのし上がるのはどの国か、等々である。
回答者はどの質問についても、現状維持、プラス方向の変化(政治的自由の拡大、経済成長など)、マイナス方向の変化の3通りについて確率で答える。
この調査では最終的に8万例の予測を集めることができた。
…中略…
調査の結果は惨憺たるものだった。
評論家の予測に比べれば、現状維持・プラスの変化・マイナスの変化に単純に同じ確立を割り当てる方がまだましだったのである。
言い換えれば、特定の分野を日ごろから多大な時間を使って研究し、それで食べている評論家たちは、ダーツを投げるサルよりもお粗末だった。
という実験結果を紹介しています。
これらは専門家の『自信過剰』が原因であろうと予想しています。
自分の(直感的な)予想に自信を持っていることから、深く考察することを避け『誤った判断を下すことの多いシステム1』に頼った予測をしているのではないかと考えられます。
さらに、専門的な専門家であればあるほど、自分の考えの過ちを認めず、おおくの言い訳を用意することが確認されており、「時期が悪かっただけ」「予想外のトラブルがあっただけ」「見方を変えれば予想通りだった」といった具合で自分の間違えを認めようとしません。
つまり、専門家の言う「いままで私は正確に将来を予測してきた」という言葉は、当てにならないケースが多いということになります。
とはいえ、中には比較的に正しい予想をしていた群もありました。
それは「幅広い事象を用いて将来を予想していた評論家」です。
特定の事象に対して「○○があったから発生したのだ!」と狭い世界の中で決めつけるのではなく、
「現実の世界はさまざまな複雑な要因や力関係の相互作用によって規定されるのであって、そこでは偶然が大きな役割を果たし、予測不能な結果をもたらす」
と考えている評論家は、そうでない評論家に比べて(たしょうは)好成績でした。
まとめ
といった感じで、本記事では『ファイト&スロー(上)』の中のごく一部を紹介させてもらいました。
システム1は効率的な思考法ではあるものの、誤った判断を下しやすいため、重要な判断をシステム1にゆだねることがないよう注意が必要です。
また、専門家になればなるほどシステム1に頼り勝ちな考えをする傾向があることから、
- 専門家の言う意見だから安心だ
- 自分は十分勉強してきたから大丈夫
と考えず、目線を広くすることが重要だと言えそうです。
ここ1年ほど、心理学関連の本を数十冊読んできましたが、学べば学ぶほど『インデックス投資が有利である』という考えが間違いないと強く思えるようになってきました。
世界は予測不能で、いくら学んだところで予測する精度が上がるとは限らないということから、個別株投資の難しさを改めて感じます。
また、インデックス以上のリターンを狙うのであれば『企業(や国)の将来性や業績予想をした結果』で戦うのではなく、
- 感情・思考に左右されない、具体的な数値を分析した結果(考察は不要)
を用いたほうが好成績となるのではないかとも思います。
今のところそんな感想を持っていますが、これからも学び続け「投資によるリターンを最大化するためにはどうするべきか?」についてを考察、本ブログで公開していきたいと思いますので、気長にお付き合い頂ければ思います。
これだから、読書・勉強はやめられない。
続きは『投資に活きる心理学』に特化しています。
よろしければ以下記事をご参照ください。
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