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【要約】竹中平蔵「経済学は役に立ちますか?」【書評】

昨今では『エピソード』を重視し、『エビデンス』を軽視している傾向が強くなっているように感じます。

 

『エピソード』とは、

  • メキシコで安く製造された自動車が輸入されるので、アメリカの自動車産業がひどいことになった

といった具体的なエピソードのことで、トランプ大統領は

  • だから、メキシコからの輸入に関税をかけよう

と言い、こういった『エピソード』を重視した戦略が成功したからこそアメリカ大統領になれたわけです。

 

しかし、関税を強化することで困るのは貧しい人たちです。

 

関税がかかれば、モノの値段は上がるからです。

 

ほとんどの経済学者は、「自由貿易が好ましい=完全をかけるべきではない」と考えます。

  • 自由に貿易することで
  • 最適な場所で資源が活用され
  • 産業全体が効率化され
  • 世界全体が豊かになる

というエビデンスがあるためです。

 

この点について、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授は

不満を持つ貧しい人たちはトランプ大統領に投票したけれども、この人たちの生活はもっと貧しくなる。

と指摘しています。

 

つまり、

  • 経済学による『エビデンス』にもとづかない、雰囲気だけの『エピソード』に左右され、自分にとって不利益な選択をしてしまう人が多くいる

というわけです。

 

そこで、『エビデンス』をベースとした経済学の大切さを知ってもらうべく、

ネット上でも大人気(?)の竹中平蔵さんと、日本の経済学、政策の中核を担っている大竹文雄さんの対談がまとめたれた「経済学は役に立ちますか?」を紹介していきたいと思います。

 

<目次>

 

経済学部出身者ではなく、東大法学部を出た人が経済政策を担っている

最初は竹中平蔵さんの経済財政政策担当大臣などを務めていたときのエピソードを紹介します。

経済学を勉強し、経済学を研究し、経済分析をやっているときに一つだけよくわからなかったことがあって、それは、なぜ経済学部出身者ではなく東大法学部を出た人が日本の経済政策を担っているのか、ということでした。

まさに、ここが

  • エビデンスよりもエピソードを重視した政策を取ってしまう元凶

と言え、

大臣になってからは、実際の政策が決められていく現場を見て、これと経済学の考え方とのギャップをどのように埋めたらいいかということを考えるようになり、それ以降、実際にどのようにしたら世の中を変えられるかということに関心がどんどん移っていったということです。

 

というわけで、この経験がきっかけとなり、

  • 竹中平蔵さんが、エビデンスを重視する政策をとるようになった

と言えそうです。

 

エビデンスを重視するということは、例えば、

  • 1億人が等しく貧しくなっていく道
  • 2000万人は貧しくなるが、8000万人は貧しくはならない道

のどちらかしか選べないのであれば、(シンプルに考えると)後者を選ぶということになります。

 

しかし、その結果、後者の道を選択した人は『置いてけぼりにされた2000万人』から徹底的に嫌われるでしょうし、

『貧しくならなかった8000万人』にも賞賛されることはないでしょう(何も変わっていないから)

 

ここら辺が、竹中平蔵さんが嫌われている理由なんでしょうね。

 

さて、『エビデンスを重視する』と言うと、「合理的に考えなければならない」と考えるのが普通ですが、合理的に考えたところで、そうそう上手くいくものではありません。

 

非合理の中に真実がある!

景気の刺激策の定番といえば『国民にお金を配る』ですが、2001年、2003年に行われた史上最大規模の減税策である『ブッシュ減税』は効果がなかったことが実験により明らかにされています。

 

その理由は

  • 「戻し税」という名前を付けたから

だとされています。

 

著書『経済学は役に立ちますか?』では

戻し税と言われると、本来払わなくてもよかったものを払っていて、損をしたものが戻ってきただけだと思う。

それだと、所得が実質的には増えていないと思うので、たとえお金が戻ってきたも使う気にならない。

しかし、それを「ボーナス」と言えば、特別に入ってきたボーナスで、所得が増えたように感じるので喜んで消費として使うだろうということです。

と解説しています。

 

このあたりが非常に難しいところで、『論理的にはこうなるはず』という政策をとっても、人々の受け取りかた次第で効果が変わってしまいます。

 

そこで、『人々は経済合理的に判断するわけではない』と理解して、最近では心理学的要素をとりいれた『行動経済学』のようなものが必要とされているわけです。

 

さて、続いては

  • 情報の効率化によって市場からはじき出される人が生まれるかもしれない

という話を紹介していきます。

 

なぜ雨の日には、タクシーがつかまらないのか?

日本には、

  • 雨の日にはタクシーがつかまらない

という問題があり、実際に「なぜタクシーがつかまらないのか?」という経済学の研究があります。

 

それによると、

タクシー運転手は1日の売上目標を決めている。

特に新米の運転手はそうしている。

雨の日はたくさんのお客さんが乗るので、早めに一日の目標額を達成する。

そこでタクシー運転手は仕事をやめて帰ってしまう。

とされています。

 

つまり、

  • 需要が多く、効率よく稼げることができる雨の日には短時間働く
  • 需要が少なく、なかなか稼げない晴れの日に長時間働く

という、非常に非効率な働き方をしているわけです。

 

日本のタクシー業界は、新規参入の壁が高くし、厳しい規制をすることによって業界の利益を守ろうとしており、適切な競争が生まれないからこそ、こういったことが起きているわけです。

 

しかし、ウーバーはそこを解決しています。

需要が多いタイミング(例えば、ニューヨーク・ヤンキースの試合終了時)には、利用料金がはねあがるので、それを狙って人が集まるためです。

 

これは『情報の効率化』によって生まれた結果です。

 

こうして、情報の効率化が進んでいくと『優秀な人材』もハッキリとするようになり、

  • 優秀な人材が、適正なタイミングで、高い料金を受け取るようになる

ようになっていき、反対に、

  • それほど優秀ではない人・その仕事に向いていない人などは切り捨てられていく

ことになるのかもしれません。

 

これは、消費者からすると

  • 優秀な人物から、適切なサービスを、適切な価格で受け取れるようになる

ということなので、市場全体としては良い効果をもたらします。

 

しかし、『切り捨てられる人材』がいることも事実で、これをどう受け取るか難しいところですが、

  • 切り捨てられる人材に配慮して、それを守るための規制を強化するべきだ
  • 切り捨てられる人材は、切り捨てられるべくして切り捨てられているので仕方がない

などなど考えられますが、著書『経済学は役に立ちますか?』の中で大竹さんは、

市場取引の結果より豊かになった部分を一部を税金で回収して、市場取引の恩恵を受けなかった人たちに再分配するということが必要になってくると思います。

と指摘しています。

 

一部の『向いていない仕事をしている人々』を守るために非効率な市場であり続けるなんてバカげた選択はせず、まずは市場全体を効率化し、全体として豊かになったのちに、資産の再分配をしてみんなで豊かになろう、という非常に納得感のある提案です。

 

さて、

  • みなが豊かになるためには市場が効率化しなければならない
  • 人材の適材適所が必要

としてきたわけですが、そのためには企業の新陳代謝も必要となります。

 

市場の効率化のためには企業の新陳代謝が必要

竹中さんは、日本の経済が豊かにならない理由に、

企業のスタートアップ(開業)がきわめて少ないと同時に、企業のクロージング(廃業)も少ない、つまり新陳代謝が低いことです。

と指摘し、

経済では、ヒト・モノ・カネ・情報という資源が、生産性の低い所から高い所に移ってはじめて成長のメカニズムがダイナミックになっていくわけで、新陳代謝が低いということは日本経済にとって大きな問題です。

と言います。

 

新陳代謝が低い原因には

  • 年功序列的なシステムによって、転職が不利となっている

という問題もありますが、

  • 競争に負け、援助がなければ生き残れない企業(業界)を、政府が(補助金などによって)助けている

という問題もあります。

 

先にあげた『関税』もその一つで、『真っ向勝負すれば、外国企業に負けてしまう企業』を守るために関税をかけているわけです。

 

もちろん『関税をかけてでも守らなければならない企業』もありますが、本来であれば経営破綻しているはずの企業が、政府や銀行の支援によってなんとか生き延びている『ゾンビ企業』が多くいると言われています。

 

たしかに、ゾンビ企業を倒産させないことで、

  • ゾンビ企業で働く人の雇用を守る
  • ゾンビ企業と取引している企業を保護する

といった効果が短期的にはありますが、長期的には、

  • 非効率な企業が生き残り、ゾンビ企業に『ヒト』や『カネ(補助金など)』などが奪われる
  • 効率的な企業に、『ヒト』や『カネ』を割り当てることができない

という問題が起き、全体で見ると『成長率が伸び悩む』ということになります。

 

『弱った企業を切り捨てる』というエピソードは、感情的には受け入れづらいものがありますが、その決断が多くの人を豊かにすることも確かです。

 

厳しい決断かと思いますが、国を動かす人たちにはこういった目線を持って欲しいと筆者は思います。

 

しかし、政治家がこうした決断をすると、

  • メディアから総叩きに合い
  • それにつられた国民からも総叩きに合う

というのが昨今の傾向のように思えます。

 

著書『経済学は役に立ちますか?』では、その原因を『メディアに経済リテラシーがないから』と指摘しています。

 

メディアに欠落する経済リテラシー

もちろん、

  • メディアは政府を叩きたいだけ(そうすれば視聴者が喜ぶから)

という問題もありますが、それ以前に

  • 真剣に報道しようと思っても、いま起きている問題や政策について議論できるジャーナリストがほとんどいない

と竹中さんは指摘します。

 

ハーバード大学にあるニーマン・ファンデーション(世界のジャーナリストを育てるプログラム)のトップは

スピリット・オブ・ジャーナリズムとは権力から距離をおくこと、そして同時に大衆から距離を置くこと。

と言いますが、日本のメディアは

  • 大衆が喜ぶ記事
  • 大衆が反応する記事

ばかりを取り上げ、

  • 政府の上げた正当な成果
  • 大衆や弱者にとって厳しいが、国の舵取りとしては正しい政策

などを取り上げることは少ないです。

 

大竹さんは、

親しい新聞記者に聞いたところによれば、新人の時に上司から、

「権力から距離を置いて大衆と同じ目線でいなさい」

という教育を徹底して受けるとこのとです。

「本など読まずに現場に行け」

と言われるようですが、それは問題だと思います。

と言います。

 

つまり、

  • 経済学をしっかりと学んだわけでもない記者が
  • 経済のことをよく分からないまま現場の声をあつめ
  • よく分からないまま視聴者に届ける

という状況にあるわけです。

 

これによって、例えば、カジノ法案について

  • 日本はパチンコによってすでにアメリカの3倍の依存症患者がいる

と言う現実を無視して、「カジノを作ると、ギャンブル依存症患者が増えるからよろしくない」と社説を書いたり、

年金の改革法で導入されたマクロ経済スライド(物価の動きに合わせて年金支給額を増減させる)のことを、『年金カット方』と呼び批判したり、

『年金2000万円問題』を『2000万円貯めておかないと老後の生活が送れない』と明らかに間違った内容で報道したり、

(そして、視聴者がそれを真に受け…)

といった問題が起きています。

 

少し前は『マスゴミ』と言った言葉がよく使われ、

  • マスコミの報道をうのみにしない

といった考えが当りまえのようになっていた気がしますが、最近では(主にSNS上では)

マスコミによる『新型コロナに関する報道』『政府を批判する報道』を真に受けている人が多くいるように感じます。

 

余談ですが、ぐうぜん菅首相の不出馬関連の報道をしているテレビ番組を見たのですが、真剣な顔をしながら、まるで2ch(5ch)の書き込みのようなコメントばかりしていて驚きましたw

 

この状況について、

「マスコミがもっと勉強してまもとな報道をすればよい」

と言うのはカンタンですが、それに期待できるとは思えませんので、視聴者自らが賢くなっていく必要がありそうです。

 

さて、せっかくこの投資ブログで『経済学』の要約記事を書いているので、最後には投資に関する内容を紹介したいと思います。

 

リスクの最後の引き受け手は投資家

日本の経済学者に圧倒的人気のJ・A・シューペンター(1883-1950)は、

  • 資本主義の源泉はイノベーションにある

と言い、

  • イノベーションのためのリスクの最後の引き受け手は銀行家(投資家)にある

としています。

 

具体例としては、

大航海時代にキリスト教世界の白人として初めてアメリカ大陸の到着したといわれるコロンブスに出資したのは、スペインのイザベル女王でした。

つまり、イザベル女王がリスクを引き受けたわけです。

といった歴史をあげ、

  • 投資家がいるからイノベーターが活動でき
  • イノベーションによって経済が発展する

ということを指摘しています。

 

つまり、

  • われわれ投資家によって、(資本主義の)世界が豊かになっていく

と言っても過言ではないわけです。

 

というわけで、世界的経済学者であるシューペンター大先生に認めて頂きましたので、これからも投資家に対する批判は無視して、コツコツと投資を続けていきたいと思います。

 

まとめ:経済学は役に立つ!

というわけで、竹中平蔵さん、大竹文雄さんという超一流の経済学者の対談を本にした『経済学は役に立ちますか?』を紹介させてもらいました。

 

この記事から『いまの世界の問題』が分かって頂ければ幸いです。

 

SNSの広がりによって、(一部の)国民の声が大きくなり、政治がそれに左右されるようになっています。

 

国民の声を政策に反映させるだけなら、国民の声をAIにでも集計させて政策を決めればいいだけなので、政治家なんていりません。

 

もちろん、政治に国民の声を反映させるのも大切なことですが

  • ほとんどの国民より、政治家・官僚のほうが『どうすれば国がよくなるのか』を必死になって学び、検討している

のも事実なので、

  • 国民は「○○をやれ!」と言うが、エビデンスでは真逆が正解だと出ているので、そちらを採用する

と言える人が台頭してくることに期待します。

 

『感情に左右されがで、個人的な視点でしか物事を見られない多くの国民(もちろん、このブログの読者はそうではないでしょうが)の意見』は無視して、『こう進むべきだ』という道を突き進む人がトップに立って欲しいなぁ、と筆者は思うのでした。

 

 

 

 

 本記事の内容が、本ブログの賢明なる読者達に届けば幸いです。

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