更新日:2021/5/5
この記事では、 世界一の投資家ウォーレン・バフェットに
アメリカの投資家に最も貢献した人間の像を立てるとしたら、ジャック[著者の愛称]・ボーグルに決まっている。
と言われるジョン・ボーグル氏が書いた遺作『航路を守れ バンガードとインデックス革命の物語』の一部を要約してお伝えしていきたいと思います。
タイトルである『航路を守れ』は、
- ジョン・ボーグルの人生のモットー(導き星)
であるとともに
- ジョン・ボーグルから個人投資家へのアドバイス
とでもあります。
ジョン・ボーグルは、『過去に類を見ないインデックスファンドを広げる』という目標を達成するために航路を守り続けたことで、多くの障害を残り超えたすえに成功を収めることに成功しました。
個人投資家も、『尽きることなく聞こえてくる魅力的な情報』に惑わされることなく、自身の投資スタンスという航路を守り続けることで、資産形成に成功できることでしょう。
<目次>
- 航路を守れ バンガードとインデックス革命の物語 著:ジョン・ボーグル
- S&P500インデックスファンドのリターン
- 2018年時点でも割高であった?
- 短期的なリターン関する期待に基づいてファンドを切り替えるべからず
- 投資信託とETFの違い
- インデックス暴落時に個人投資家がどう動くのか…
- インデックスファンドの問題
- 航路を守れ
航路を守れ バンガードとインデックス革命の物語 著:ジョン・ボーグル
この本は、著書『ウォール街のランダムウォーカー』で有名な、バートン・マルキール(バンガードの取締役を28年間務めた)の言葉から始まります。
スタンダード&プアーズの調査によれば、2017年末までの15年間、アクティブファンドの90%以上が、ベンチマーク指数をアンダーパフォームしており、アクティブファンドは平均で、対象指数を年間1ポイントも下回っている。
投資家がインデックス・ファンドから得られるのは、平均的なパフォーマンスではなく上位10分位のリターンである。
インデック・ファンドは、貯めた資金を投資して可能な限り最大のリターンを得るには、理想的な手段である。
イデックス投資家であれば、当たり前のように知っているであろう
- アクティブ投資でインデックス投資に勝つことは困難だ
ということを強調しています。
さらに、この本のキモとなる
ジャック・ボーグルが「ファースト・インデックス・インベストメント・トラスト」(現バンガード500インデックスファンド)を作った時、投資業界は嘲笑で迎え、「ボーグルの愚行」や、「失敗する運命にある」、「アメリカらしくない」などと酷評された。
このファンドや姉妹ファンドのトータル株式市場ファンドが世界の2大ミューチュアルファンドになるとは、ジャック自身も予想していなかった。
という話をしています。
1975年までインデックスファンドは存在すらしておらず、ジョン・ボーグルによって誕生したわけですが、誕生した当初は市場にまったく受け入れられませんでした。
しかし、ジョン・ボーグルが『インデックスファンドを広げる』という航路を守り続けたことにより、今では当たり前のように受け入れられるようになりました。
この『航路を守れ』では、 ジョン・ボーグルがインデックスファンドを世の中に認めさせるまでのストーリーが語られています。
また、物語を通じて
- インデックス投資が有利が有利だと言われる理由
- インデックス投資の実績
- インデックス投資の問題点
などについても言及しており、現代の全ての投資家にとって有益な情報がちりばめられています。
この記事で全ての内容を紹介することはできませんが、筆者(ひょしおんぬ)が重要だと感じた箇所を抜粋し、お伝えしていきたいと思います。
S&P500インデックスファンドのリターン
よく「米国株式(S&P500)へのインデックス投資でのリターンは、年7%程度のリターンが期待できる」と聞くかと思いますが、まずその根拠をご紹介します。
バンガードがインデックスファンドを登場させた1975年から、2018年のおよそ43年間のリターンは『年11.5%』となっており、その間のインフレ率が『年4%』であったため、実質リターン(資産”価値”の増加分)は『年7%』だったことになります。
また、バンガードがインデックスファンドを登場させるにあたって分析した情報によれば、1945年~1975年までの30年間のリターンは『年11.3%』となっており、その間のインフレ率は、『およそ年5%』程度であったため、実質リターンは『およそ年6%』となります。
両実績を平均すると、S&P500へのインデックス投資によって
- 1945年~2018年の73年間で、年平均6.5%程度のリターンが得られた
ということになります。
1945年といえば第2次世界大戦が終結した年ですが、その『混乱した時代』であっても、近年の『安定した時代』であっても、安定して年6~7%のリターンが得られたというのは、驚くべき事実であるとともに、インデックス投資家を安心させる結果でもあります。
しかし、だからといって今後も同等のリターンが保証されているわけではなく、むしろ、ジョン・ボーグルは「2018年のバリュエーションは高い(割高)ように思われる」と言っています。
2018年時点でも割高であった?
『航路を守れ』でジョン・ボーグルは、
今後、S&P500の11%という年次リターンが再び起きる可能性は非常に低い。
1978年には、株式のバリエーションは比較的低く、配当利回りは高かった(3.9%)。
2018年には、バリュエーションは高く、配当利回りは低い(1.8%)ように思われる。
と発言しています。
何を持って『バリュエーションが高い』とするか非常に難しいところではありますが、ジョン・ボーグルは配当利回りを持って『高い』と判断しています。
株価を割高だと測る代表的な指数PERは、以下グラフの通り推移しており、『かなりPERが高い』といえる状況にあり、
また、ウォーレン・バフェットが株価が割高かどうか判断する際に使用する『バフェット指数』も以下グラフの通り推移しています。
出典:Ratio of Wilshire 5000 over GNP - GuruFocus.com
バフェット指数は、『100%(このグラフでは'1')を超えると割高』と判断され、
- ジョン・ボーグルが割高だと判断した2018年時点では、140%前後
だったわけですが、
- 2021年現在では、200%超まで上昇
となっています。
だからといって暴落が待っているというわけではありませんが、ある程度の覚悟が必要となりそうです。
その暴落は、『比較的安定している』インデックス投資に対してでも容赦なく襲い掛かります。
なかには、「暴落しそうだから、暴落に強そうなファンドに乗り換えよう」と考える投資家もいるかもしれませんが、ジョン・ボーグルはその選択に対して警告しています。
短期的なリターン関する期待に基づいてファンドを切り替えるべからず
バンガードでは、S&P500の企業を2つに分けた
- グロース銘柄(成長株)のインデックスファンド
- バリュー銘柄(割安株)のインデックスファンド
という商品を準備しています。
ジョン・ボーグルがこの2つの商品を準備している理由は、
- 資産を蓄積中の投資家(現役世代)は、ボラティリティの高い(価格変動の大きい)グロース銘柄
- 退職した投資家は、高い配当金と低いボラティリティのバリュー銘柄
と、投資家の人生のステージによって使い分けるためです。
しかし、投資家には、このジョン・ボーグルの想いが正しく伝わっていないようで、そこに対して以下のように警告しています。
出資者向けの年次報告書で、私は何度も、この2つの市場セグメントの短期的なリターンに関する期待に基づいてファンドを切り替えのは、逆効果になる恐れがあると警告している。
また、長期的には、グロース指数とバリュー指数が生むリターンは同様になるとの予想も伝えている。
私の予想は、ほぼ正確だったことが確認されることになる。
創設から四半世紀の間、グロース・インデックス・ファンドの年間リターンは8.9%、バリューインデックス・ファンドは9.4%と、ほとんど変わらなかったのだ。
だが、私の警告に耳を貸す人はほとんどおらず、どちらの投資家も、この2つのシリーズをしょっちゅう切り替えていた結果、得られたリターンは、ファンド自体のリターンよりもはるかに少なかった(グロースが6.1%、バリューが7.9%)。
私は、自分がインデックス投資の大きなメリットだと思っていたものを、両ファンドのあまりにも多くの投資家達が間違って利用したことに驚き、それ以上に当惑した。
このブログだけでなく、各所で
- タイミング投資(タイミングを計って投資先を変更する行為)はリターンを押し下げる
と繰り返しのように言われているわけですが、タイミング投資をする投資家によって、年次リターンが
- グロースインデックス投資:8.9%→6.1%
- バリューインデックス投資:9.4%→7.9%
と大きく押し下げられていた実績を紹介しています。
インデックス投資家は、ある意味で『投資先を選ぶことを諦めた投資家』であるはずですが、『投資先を選ぶことを諦めきれなかった』がゆえに、このような悲惨な結果を招いたようです。
また、インデックス投資家の行う『投資先を選ぶ』という行為には、
- 投資信託か、ETFか
という選択もあるわけですが、『航路を守れ』ではそこについても言及しています。
投資信託とETFの違い
バンガードでは、『投資信託』『ETF』の両方を取り扱っているわけですが、S&P500に連動する投資信託・ETFのどちらもリターンはほぼ同じになります。
しかし、2004年~2017年の投資家リターンの調査によると
- 投資信託:8.4%
- ETF :5.5%
と驚くほどの差がついていることが分かりました。
ジョン・ボーグルは、この差について以下の通り説明しています。
※下に出てくる『TIF』とは、『Traditional index fund』の略で、『伝統的インデックスファンド=S&P500インデックスファンドのような、”まとも”な投資信託』のことです。
極端に言えば、TIFとETFの違いは、「TIFはパッシブ投資家が保有するパッシブファンドで、ETFはアクティブ投資家によって売買されるパッシブファンドだ」と考えれば分かりやすいだろう。
この意味で、ETFは、先に述べたように、相対的な投資家リターンでは明らかに劣っているにもかかわらず、投資家にとってある種の「居心地のいい場所」を見出したように思われる。
ETFは、投資家の、コストが重要だという認識の他にも、ポートフォリオをコントロールしたいという衝動や、「何かをする」という傾向に応じるものである。
だが、「ただそこに突っ立っているのはやめろ」というのは、直観的に満足のいく理念ではあるが、勝つ投資戦略であると証明されてはいない。
ETFが登場したことで、投資家は気軽にインデックスファンドの売買が出来るようになったわけですが、
『売買できる』というメリットのように見える特徴が、『いらぬ売買をしてしまう』という問題を引き起こし、リターンを押し下げる結果となりました。
先に挙げた『ファンドの乗り換え』と同じような話ですが、『投資家の余計な行動がリターンを押し下げる』というのは間違いなさそうです。
といった感じで『投資信託(インデックスファンド)は優れている』と紹介してきたわけですが、そんなインデックスファンドにも課題はあります。
インデックス暴落時に個人投資家がどう動くのか…
ジョン・ボーグルは、以下ように言っています。
過去の経験からは、市場が衰退している時には、S&P500インデックス・ファンドも、平均的なミューチュアルファンドと同程度下落することが分かっている。
近年、インデックスファンドへの正味キャッシュフローがかつてないほどになっていること(主に、時価評価が過去最高に近づいていることによる)を考えると、インデックス投資家は、必ずやってくる次の弱気相場では過剰反応に陥り、史上最高値近くで買った投資口を、史上最安値近くで売却することになりかねない。
特に、不確実な時代には「航路を守る」ことを勧める。
バンガードの長い歴史において、この助言は素晴らしい効果があった。
だが、株式市場では、過去はプロローグではない。
投資家がこの先、この助言を心に留め続けられるかどうかは、時間が立たなければ分からない。
『無難な投資先』と言われるインデックスファンドであろうとも、市場が暴落すれば多きなダメージを受けることは確実です。
ここ最近の投資ブームによって投資を始めた人は、好調な市場によって「投資なんてちょろいな」と考えているかもしれません。
しかし、いつか必ずくるであろう弱気相場に遭遇した時に航路を守り続けられるかどうかは分かりません。
「暴落があったって売るはずない」と自分は考えているかもしれませんが、『暴落が発生した』ということは、『投資家が逃げ出した』ことに外ならず、その中において何の根拠もなく「自分だけは大丈夫だ」と言うことはできませんし、
その時にどれだけの人が逃げ出すのか=どれだけの暴落になるのかは分かりません。
よって、強い覚悟が必要となりそうです。
また、インデックスファンドには次のような問題もあるとしています。
インデックスファンドの問題
『航路を守れ』では、
競合企業の株式を多数保有すファンドは、競争阻害的な動機を生む、と主張する文献は、少数だが増えている。
例えば、S&P500インデックスファンドは、株式を公開している全航空会社の大株主なので、「ファンドは、明示的もしくは黙示的に、航空会社の経営陣に、お互いに競争しないよう働きかけている」と批判する。
…中略…
その主張は、ある業種の全企業の株式を多数保有している者は、利益を最大化するために、それらの企業に対し、賃金を引き下げ、価格を引き上げることを、少なくとも黙示的には奨励する、というものである。
もしこのような行為が立証されるのであれば、競争阻害的とみなされ、1914年クレイトン反トラスト法の違反となるだろう。
※『トラスト法』とは『独占禁止法』のこと。詳しくはこちら。
といった、インデックスファンドへの批判を紹介しています。
インデックスファンドがアメリカの株式を保有している割合は、
- 2002年: 3.3%
- 2009年: 6.8%
- 2018年:14.0%
と、急激に増加し続けています。
また、インデックスファンドだけでなくの全ての金融機関(年金基金などを含む) の保有割合は『63%』にものぼると見られており、
- 金融機関による、アメリカ企業の支配
が起きようとしていると言えなくもありません。
このような状況に対して、ジョン・ボーグルは、
それが金融市場やコーポレート・ガバナンス、公共政策に及ぼす影響を注意深く見守らなくてはならない。
これは、今後の時代における大きな論点となるだろう。
もっとインデックス投資を増やし、アクティブ株式運用は減らすべきだと考える向きもある。
80%ぐらいまでは何の問題もないと考える人たちもいるが、私はそうは思わない。
少数のインデックス運用会社が企業の全議決権の80%を保有すれば、最大の会社は30%以上も保有することになる。
このような集中が、国益に資するとは思えない。
と、警告しています。
日本でも『インデックス投資がベストな運用方法』という考え方が広がりつつありますが、これは『アクティブ投資が多数をしめている時代だから通用している考え方』であることを忘れないようにしなければなりません。
航路を守れ
といった感じで、『航路を守れ バンガードとインデックス革命の物語 著:ジョン・ボーグル』を紹介させてもらいました。
この記事の中では、『航路を守れ』の中から投資に直結しそうな内容を重点的に紹介させてもらいましたが、
- バンガードやインデックスファンド誕生の物語
に多くの紙面を割かれていますので、
- 物語を通じてインデックスファンドについて学びたい
- ジョン・ボーグル氏について知りたい
といった方にはおススメできる本となっています。
この本はジョン・ボーグルの遺作となったわけですが、最後にこういった本を執筆し、「航路を守れ」というアドバイスを残してくれたことに感謝です。
最後に、ジョン・ボーグルの言葉をお借りして、この記事を終わりとさせて頂きます。
航路を守れ
私は普段、「航路を守る」という表現を、株式市場の毎日の変動は無視して、米国経済の長期的な成長を重視するという、投資を成功させるための重要なルールとして使っている。
だが、この回願録を書き上げるにあたり、「航路を守る」というのは、短い人生の間に必ず起こる浮き沈みを乗り越え、豊かで尊敬に値する人生を十分に生きるための優れたルールであることを、伝えたいと思う。
本記事の内容が、本ブログの賢明なる読者達に届けば幸いです。
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