「経済学を勉強して、投資に活かそう!」と考えているとしたら、ちょっと待ってください。
というのも、経済学で想定されている『人間』は『変人』だけで構成された学問となっているためです。
経済学を考える上で定義されている人間は『合理的経済人』と呼ばれ、
- 自分の利益だけを考える人
- 強い自制心をもっている人
- 計算能力や認知能力が非常に高い人
と想定されています。
具体的には、
- 損得を正確に計算できる
- 未来が正しく予想できる
- 他人の行動に左右されない
- 衝動買いはしない
- 自分に必要な情報をすべて知っている
といった能力を持った人を想定しています。
というのも、
- 経済学を考えるうえで、人によって異なる能力・思考を加味していては、複雑になりすぎる
ためで、上であげたような『行動が読みやすい人物』をもちいて考えるようにしているのです。
しかし、残念ながら世の中のほとんどの人は『”非”合理的経済人』であるため、経済学が当てはまらないケースが多々あります。
例えば、すべての投資家が『合理的経済人』であったとしたら、
- 企業価値を超えるところまで株価が上がることはない
- バブルなんて発生するはずがない
わけですが、現実は違います。
そこで、昨今注目されているのが『行動経済学』です。
『行動経済学』は、『旧来の経済学』に加え『心理学』の知見も活用することで『旧来の経済学』をより現実に寄せて考えられた学問です。
というわけで、『行動経済学』は様々な場面で『実生活』に活かせる学問ですが、残念ながら難解なモノも多く勉強するのも一苦労です。
というわけで、この記事では
- カンタンに理解でき、すぐにで活用できる行動経済学
を抜粋し、いくつか紹介させてもらおうと思います。
ここで紹介した知識によって、『行動経済学を知っていれば回避できた損失』を覚えて頂き、投資リターンの向上に役に立てば幸いです。
<目次>
- 報酬は先だしで
- 現金が欲しいけど、もらって嬉しいのは『モノ』
- 1万円もらった嬉しさと、1万円失う悲しさは釣り合わない
- 『可能性効果』のせいで投資に魅力を感じづらい
- 投資した銘柄は、投資する前によりも魅力的に見える
- 「多くの人がやっている」で追従してしまう
- ハウスマネー効果を知らなければ、儲けたお金は消えていくのみ
- まとめ:行動経済学を株式投資に活かすために学ぼう
報酬は先だしで
相手に目標を達成させるようにするためには、成功報酬を先に渡してしまうのが効果的です。
ハーバード大学のローランド・フライヤー教授の研究によると、小中学校の先生に対して『生徒の成績改善』を目標としてあたえ、
- 成功報酬を先に渡し、目標を達成できなかったら報酬を没収する
- 目標を達成できたら報酬を渡す
の2グループに分けて実験したところ、
- 『報酬を先に渡したグループ』の方が高い目標達成率となる
ことが分かりました。
それどころか、
- 『目標を達成したら報酬を渡すグループ』は、生徒の成績が向上しなかった
という驚きの結果が得られました。
「○○を達成したら、○○を買う!」みたいな目標は定番なモノですが、これにはほとんど効果がないようです。
(思い当たるフシのある方も多いでしょう…)
よって、目標を達成するためには、
- iPadを買って、半年以内に5kgのダイエットができなければiPadを売る
- 半年後の旅行を予約しておいて、5か月以内に貯金を10万円増やせなければキャンセルする
といった方法を用いるのが効果的です。
また、パートナーがいる方であれば、
- ○○を買っておいて、目標を達成できなければ○○をパートナーにあげる
- ○○をパートナーにプレゼントしておいて、目標を達成できなければ没収する
といった方法で、自分だけでなくパートナーお目標達成を強力に後押しすることができそうです。
また、この報酬は『現金』よりも『モノ』であるほうが、より効果的になります。
現金が欲しいけど、もらって嬉しいのは『モノ』
多くの人は「モノよりもお金が欲しい」と言いますが、実際は『モノ』を渡したほうが満足度が高くなります。
グーグルの社内調査によると、
- 「報酬としてもらうのなら、モノ(経験や品物)よりも現金だ」と考えている人が多い
という結果が得られましたが、実験として『半分のグループには現金』を、『残りの半分には現金と同程度のモノ』を渡し、満足度を調査したところ、
- モノを受け取ったグループの方が、満足度が高かった
- モノを受け取ったグループの方が、報酬の記憶が強く残っていた
という結果となりました。
つまり、
- 「達成したら○○をプレゼントする」という釣りかたであれば、現金を報酬にした方が効果的
- 「○○を先に渡して達成できなければ没収する」という釣りかたであれば、モノを報酬にした方が効果的
だと言えるわけです。
この方法で、あなたの目標達成だけでなく、身の回りにいる人をコントロールしてみてはいかがでしょうか。
さて、この『先に報酬を渡した方が効果的』なのは、株式投資にも直結する考え方になりますので、そのあたりも見ていきましょう。
1万円もらった嬉しさと、1万円失う悲しさは釣り合わない
こちらの記事でも紹介しましたが、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンによるプロスペクト理論では、
-
『1万円もらった嬉しさ』と『1万円失った悲しさ』は釣り合わず、悲しみの方が大きい
とされています。
これも投資経験のある人ならよく分かるかと思いますが、
- 100万円の元本を、1年かけて200万円にまで増やすことに成功した
- しかし、その1年後に市場が暴落して200万円が120万円にまで減った
となった場合、かなり悔しい思いをすることは間違いないでしょう。
しかし、冷静に考えてみると、
- 2年間で20万円増やすことができた
わけで、『2年間で20%増』という高リターンを手にしているので、『悲しむ必要はない』どころか『大喜びできる』状況のはずです。
で、あるにも関わらず、ほとんどの人は大きな悲しみを味わうことになります。
株式投資は、『短期的には上がったり下がったり』を繰り返しているので、極端な話をすると、
- 株価が100円上がった、翌日に100円下がった、翌日に100円上がった…
と、実際は損も得もしていないような相場にあっても、『損失』のダメージが蓄積していき、株式投資がイヤになってしまう、ということもあるわけです。
そうなってしまわない為には、
- 『損失』の方が大きく感情を揺さぶっているだけだ
ということを理解し、感情だけでなく『実績値(上の例でいうと『2年間で20%増』)』をしっかりと見る必要があります。
ちなみに、ダニエル・カーネマンの研究によると、
- 『損失』は『利益』の2倍のイメージをあたえる
と分かっていますので、
- 2万円もうかった後に1万円損しただけで、メンタル的にはイーブンになる
わけです。
株式投資(特に頻繁に資産の増減をチェックすること)が、メンタルによくない影響を与えることがよく分かりますね。
というわけで、個人投資家が市場から退場してしまわないためには、
- いったん投資(積立設定など)をしたら、あとは気にせず放置してく
といった方法が良いアイデアだということが改めて理解できます。
また、『可能性効果』という『投資が魅力的に感じられないワナ』も存在しています。
『可能性効果』のせいで投資に魅力を感じづらい
「日本国民には95%の確率で100万円もらえる権利があたえられる。」
と、嬉しい決定がされたとします。
その後
「ただし、あなただけは特別に100%の確率でもらえます。」
と言われると、その喜びはさらに大きくなることでしょう。
また、
「日本国民にお金を配ることはありません。」
と決定したとしましょう。
その後
「ただし、あなたは特別に5%の確率で100万円もらえる抽選が行えます。」
と言われても、かなりの喜びがあるでしょう。
しかし、
「日本国民には60%の確率で100万円もらえる権利があたえられる。」
と、嬉しい決定がされたとします。
その後
「ただし、あなただけは特別に65%の確率でもらえます。」
と言われるとどうですか?
「もらえる可能性が60%から65%に上がったところで、大して嬉しくないよ」
という方がほとんどではないでしょうか。
しかし、その3パターンとも、
- 100万円もらえる可能性が5%上がるという期待値
は同じです。
つまり、
- 本来であれば、どのパターンにおいても同じくらいの喜びでなければおかしい
わけです。
しかし、多くの人は『確実(100%)』に強いイメージをもってしまい、
- 『確実にもらえる』ようになる変化
- 『確実にもらえない』を回避できる変化
を、実際以上に魅力的に感じてしまいます。
他にも具体例をあげると、
「60%の確率で成功する手術をします。追加で100万円払ってもらえれば成功確率を5%上げられます。」
と言われると、悩むかもしれませんが、
「95%の確率で成功する手術をします。追加で100万円払ってもらえれば成功確率を5%上げられます。」
と言われると、『払う』と決断する人は多いでしょう。
つまり
- 『確実』が得られるのであれば、実際に得られる効果以上のお金を支払ってしまうことがある
と言えるわけです。
だからこそ、
- 『確実』に(額面上の)お金は減らず、ちょっとだけ利息のもらえる貯金
が実態以上に魅力的に感じてしまい、
- まぁまぁな確率でお金が増える投資
は、魅力的に見えないのかもしれませんね。
というわけで、投資には高い心理的ハードルが準備されており、『儲かる可能性が高い』と知れ渡っている今でさえ、投資家の数が少ない理由がよく分かりました。
また、これらハードルを乗り越え、実際に投資をすることになったとしても、投資には多くのワナがひそんでいます。
投資した銘柄は、投資する前によりも魅力的に見える
投資における代表的な心理のワナは、
- 投資した銘柄は、投資する前よりも魅力的にみえる
というもので、これによって
- 投資した銘柄に問題が見つかったとしても、なかなか売るコトができない
という問題が起きます。
次のような有名な実験があります。
人々を2つのグループに分け、片方のグループにはペンを、もう片方のグループにはチョコレートを渡しました。
その後、
- ペンを渡したグループには「ペンをチョコレートと交換できる」と提案
- チョコレートを渡したグループには「チョコレートをペンと交換できる」と提案
しました。
しかし、どちらのグループも交換を希望した人は10%ほどしかいませんでした。
つまり、
- 90%の人はモノをランダムに受け取ったのにも関わらず、そのもらったモノに満足した
というわけです。
これを『保有効果』と言い、株式投資に当てはめると
- 一度手に入れた銘柄は実体以上に魅力的に見え、売るコトが難しくなる
といったことが起き、これによって『塩漬け銘柄』が生まれてしまったりするわけです。
『塩漬け銘柄』を持っている方は『保有効果』を理解し、「この銘柄は、本当に持ち続ける価値があるのか?」と考え直した方がよさそうです。
「多くの人がやっている」で追従してしまう
SNSなど、個人の発信が増えた昨今では、
「私は○○に投資している」
「○○投資で、大儲けした」
といった情報が氾濫しており、ついついそれに釣られて投資してしまう人が後を絶ちません。
しかし、それは言うまでもなく危険な行為です。
人は「多くの人がやっている」と知ると、自分もそれを追従しようとしてしまいます。
あるホテルの実験では、タオルの再利用を促すために
「75%の宿泊者は、タオルの再利用に協力してくれています」
というメッセージを部屋に残しました。
その結果、
- タオルの再利用率が10%向上した
という結果が得られました。
こういった「多くの人が選んだモノと同じ選択をする」といった行動は、例を挙げるまでもなく共感できることでしょう。
これは投資先を選ぶときにも作用し、
「みんなが○○を買っているから自分も投資しよう!」
と、○○のことを深く理解しないまま投資してしまった経験のある方は多いでしょう。
しかし、『中身のよく分からない流行りもの』に投資したところで儲けられるはずもありません。
結果、痛い目に合うのは火を見るよりも明らかです。
自分が投資判断をするときには、
「この判断は、多くの人の意見に影響されただけのものではないか?」
と自問自答する必要がありそうです。
さてさて、こういったワナを回避し、見事利益を手にしたとしても、それを守り続けるためにも行動経済学を理解しておく必要があります。
ハウスマネー効果を知らなければ、儲けたお金は消えていくのみ
『ギャンブルで儲けたお金』は『労働で手に入れたお金』よりも軽く感じてしまい、再びギャンブルの賭け金にしてしまったり、パーっと豪遊してしまう傾向があります。
これをハウスマネー効果といいます。
つまり、投資に対してギャンブルに近い感覚を持っていると、投資で儲けることが出来たとしても、
- 投資で儲けた分を浪費してしまい、手元にには何も残らない
- 投資で儲けた分をさらに高リスクな投資に投じ続けることになり、いつかくる『負け』のタイミングでそれまでの儲けをすべて失う
といったことになりかねません。
また、ギャンブルで負けた投資家は「ギャンブルで損失を取り変えそう!」という考えになりがちです。
これをブレークイーブン効果といいます。
もし、理性をもって『ハウスマネー効果』『ブレークイーブン効果』を止めることができなければ、最終的にはすべての投資家が『破綻』することになります。
具体的には、
- 投資で100万円儲けた
- その100万円をレバレッジ投資した(ハウスマネー効果)ら、300万円になった
- 300万円をさらハイリスクな商品に投資した(ハウスマネー効果)ら、1000万円になった
- 1000万円をさらにハイリスクな商品に投資した(ハウスマネー効果)ら、500万円失った
- 損失を取り戻そうと、さらにハイリスクな商品に投資した(ブレークイーブン効果)ら、500万円も失った
といったことも起こりうるわけで、一時的に大きなリターンを手にしたとしても、リスクを取り続けることによって一度負けただけで『破綻』してしまうわけです。
つまり、本能に任せて投資をしていては、
- 勝てば勝った分だけリスクを上げつづけ、負けたとしても損を取り戻すためにリスクを上げていく
と、勝っても負けても泥沼にハマっていく運命にあるわけです。
この泥沼にハマらないためには、『ハウスマネー効果』『ブレークイーブン効果』といったワナが存在していることを理解し、
「投資で儲けたお金であっても、ただのお金であることに変わりはないので大切にしよう」
「投資で負けた分を投資で取り返そうとする行為は、沼に落ちていく行為だから絶対にやめよう」
と理性で踏みとどまる必要があります。
株式投資では、資産が右肩上がりに増え続けるようなことはなく、増えたり減ったりの繰り返しです。
そのたびにここで紹介したような本能に操られないよう、ご注意ください。
まとめ:行動経済学を株式投資に活かすために学ぼう
というわけで、『すぐに使える行動経済学』をいくつか紹介させてもらいました。
ざっとまとめると、
- 成功報酬を先に渡してしまうことで成功率がアップする
- 「現金が欲しい」というわりに、もらって嬉しいものは現物
- 同額であれば『失った悲しさ』は『手に入れた嬉しさ』の2倍のインパクトがある
- 『可能性効果』によって『確実』が実際よりも魅力的に見える
- 一度手に入れた銘柄は、実態以上に魅力的に感じてしまう
- 『多くの人がやっている』とそれを追従してしまう
- 行動経済学を理解せねば、投資で勝っても、投資で負けても、待っているのは泥沼だけ
といった感じになります。
この記事から、
- 投資をする人にとって『行動経済学』は必要不可欠なモノである
ということがお分かりいただけたのであれば幸いです。
株式投資をするのに必要なスキルは『適正な株価を読む能力』だと考えられがちですが、私はそうは思いません。
というのも、世の中には『ずば抜けた適正な株価を読む能力』を持っている投資家が多く存在しており、そういった能力者が市場の大金を動かしています。
つまり、
- 適正価格よりも低い株価のものがあれば、すぐに適正価格になるまでお金が集中する
- 適正価格よりも低い株価のものがあれば、すぐに適正価格になるまでお金が逃げていく
わけで、それはすなわち
とも言えます。
よって、
- 大した能力もない個人投資家が『適正な株価を読む勝負』で市場に打ち勝とうとするのは困難
だと言えるわけです。
そこで、個人投資家には『行動経済学』を通じて
「『心理のワナ』にハマることで、必要のない損失を負うことを避けて欲しい」
という思いで、この記事を書いてまいりました。
本記事の内容が、本ブログの賢明なる読者達に届けば幸いです。
なお、この記事を書くにあたって以下の書籍を参考にしています。
投資×行動経済学に興味を持ったいた方がいたら、ぜひ読んでみてください。
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