先日、
「日本の2007年以降の生産年齢人口一人当たりの実質GDPは、G7のどの国よりも伸び率が高い」
という情報を手に入れて、かなり「意外」だと驚いたので調べてみました。
なお、情報源は『グレートナラティブ』という著書で、著者は世界経済フォーラム(ダボス会議)の主催者であるクラウス・シュワブなので、アヤシイ情報ではありません。
んで、調べてみると下のような情報が見つかりました。
これは、2000年時点の一人当たり実質GDPを100ポイントとし、1980年~2014年までの推移をあらわしたグラフです。
確かに『日本の生産年齢人口(15~65歳)一人当たりの実質GDP(黄色い点線)』は、アメリカをしのぐ成長をみせています。
仮に『GDPを押し上げている人間』=『生産年齢の人間』とするのであれば、これをもって「日本の現役世代は結構ガンバっている!」なんてことが言えるのかもしれません。
しかし、
「”生産年齢人口”って、働いている老人が含まれていなかったり、専業主婦や大学生が含まれていたりするよねぇ…」
など、なんとなく腑に落ちなかったので、確からしさを調べるためにもIMFのサイトから色々とデータを集めてグラフ化、調査してみました。
グラフは、
- 「失われた30年」のみを切り取ったデータ
- 1980年から全期間のデータ(IMFにある全データ)
の2期間を対象に
- 国民一人あたりGDP
- 労働者一人あたりGDP
の2つのデータを持ってきて
- G7各国と比較
な感じで作りました。
<目次>
1980年からの国民一人当たり実質GDP
まずは、『1980年からの国民一人当たりGDP』です。
(1980年時点を100ポイントで統一)
日本は1980年代にそこそこの成長をしていたので、過去40年ちょいの推移に目を向けると、日本は結構ガンバっていたことが分かります。
失われた30年の国民一人当たり実質GDP
続いて『直近30年の国民一人当たりGDP』です。
これは「この失われた30年間、日本はまったく成長していない!」という発言の根拠として流用されるデータの一つです。
(1991年時点を100ポイントで統一)
赤い点線が日本で、(イタリアを除くと)他国よりも低成長であることが分かります。
これはイメージ通りで、
「やっぱりここ30年ほどの日本はアカン!」
ということになります。
さて、ここからが大切なポイントで、
「GPDを全人口で割ったらイマイチだけど、労働者の数で割ったらいい感じのはず」
という推測を確認していきましょう。
失われた30年の労働者一人当たり実質GDP
というわけで、GPDを『労働者の数』で割った、『労働者一人当たり実質GDP』をグラフ化します。
なお、期間は1991年から(失われた30年)とします。
冒頭で紹介したデータは『生産年齢人口』で割っていますが、
「生産年齢でも働いていなかったり、生産年齢じゃなくても働いている人もいるよね」
ということで、ここでは『労働者の数』を使います。
結果はこれ。
あれ!?イマイチじゃん!!
冒頭で紹介した
「日本の2007年以降の生産年齢人口一人当たりの実質GDPは、G7のどの国よりも伸び率が高い」
に合わせて2007年以降のデータにしても、
と、イマイチであることに変わりはありません。
んで、冒頭で紹介した内容と今回の結果を並べると、
- 生産年齢人口一人当たりの実質GDPは、アメリカ以上の成長となっている
- 労働者人口一人当たりの実質GDPは、G7中6位とダメダメ
ということになります。
分母となる全体のGDPは同じなので、
- 他国に比べて、生産年齢人口は少ないけど、労働者の数が多い
- なので、労働者一人当たりGDPにすると、値が小さくなる
ということになります。
で、これを確認するべく『国別の労働者の比率』を見てみることにします。
国別の労働者の比率
結果はこれ。
日本の労働者比率がかなり高いことが分かります。
日本は少子高齢がが進んでおり、生産年齢人口は減少しているのにも関わらず、ここ10年ほど労働者が増え続けています。
日本の人口と労働者数を並べてみると、
となっており、
- 人口は減少傾向にあるが、労働者数は増えている
ということが分かります。
これは、
- 65歳以上の労働者が増えた
- 共働きがあたり前になるなど、生産年齢人口の労働者が増えた
といったことが考えられます。
そうなった要因としては、
- これまでは働かずに済んでいた人々が、働かなければならなくなった
- これまで働いてこなかった人々が、「働きたい!」と考えるようになった
のどちらかであり、後者が多いことを祈りますが、実際は前者が多いでしょう…。
んで、
- 『これまで働いてこなかった人々』が働き出したとて、『生産性の低い職』についてしまう可能性が高い
- よって、『労働者の増加』により、『労働者一人当たりのGPD』が減少している
ということが想像できます。
ここまで理解したうえで、冒頭であげた
「日本の2007年以降の生産年齢人口一人当たりの実質GDPは、G7のどの国よりも伸び率が高い」
について考え直してみると、
- 生産年齢人口は減っている
- 労働者が増えているから日本全体のGDPは落ち込んではない
- つまり、『労働者が増えたことで維持できているGDP』を『減少している生産年齢人口』で割れば、『生産年齢人口一人当たりの実質GDP』が高くなるのはあたり前
ということになります。
「日本の生産年齢一人当たりGDPはアメリカより伸びている」を読んだ時点では、「意外と日本も捨てたもんじゃないねぇ」なんて感想をもったわけですが、残念な結果となりました。
とはいえ、
- 国民一人当たりGPD
- 生産年齢一人当たりGDP
- 労働者一人当たりGDP
にはそれぞれ違った意味があり、どれか一つだけのデータをもってして「○○だから○○である!」と結論づけることはできません。
それどころか、『GDPだけで何かを測る』という行為そのものに無理があるのかもしれません。
(『幸福予算』を準備し『GDP意外の指標』を大切にする国が出てきたのは、そう考えてのことかもしれません)
というわけで、今回の分析から
- 「感想だけではなくデータが大事!」と言わることが多いが、データも『見せ方』や『計算方法』によって、まったく違った結果(や印象)をもたらすことがある
- よって、与えられたデータを妄信することなく、「このデータにはどんな意味があるんだろうか?」を自分で考えなければならない
という教訓をあらためて得られました。
この記事を書きだしたタイミングでは「日本も捨てたもんじゃないんだよ!」っていうことを広めることを目的としていたのに、結果としては真逆の記事となってしまったのは残念ですが、よい勉強となりました。
本記事の内容が、本ブログの賢明なる読者達に届けば幸いです。
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