中国が自国のデジタル通貨(仮想通貨)であるデジタル人民元の発行に向けてつき進んでいます。
デジタル人民元は、
- 2022年2月の北京オリンピックに合わせ全世界にお披露目する可能性が高い
と言われており、かなり急ピッチで検証が進められている真っ最中です。
というのも、
- 中国が他国からモノを輸入するケースの92.8%はドルで取引している
という状況にあるため、
- 中国がドルを調達できなくなれば、中国経済は大きなダメージを負う
というリスクがあるためです。
高い成長率を維持しつづけ、2020年代後半には名目GDPが世界一となることが確実視されている中国ですが、『輸入のほとんどがドル頼り』という状況にあっては安心して貿易することはできません。
そこで主要国の中でも先駆けてデジタル通貨を発行し、
- アメリカの干渉なくして、貿易が行える環境を手に入れる
- そして、いずれは世界の基軸通貨の座を奪い取る
という目標を達成しようとしています。
もし、世界の基軸通貨がドルからデジタル人民元に移れば、
- ドルが暴落する
- ドル建ての資産も暴落する
- つまり、アメリカに投資している投資家に大ダメージをあたえる
といったことが起こるかもしれません。
そこでこの記事では、著書『決定版 デジタル人民元 世界金融の覇権を狙う中国』を要約、引用しつつ、今後のデジタル通貨について考えていきたいと思います。
<目次>
- 『決定版 デジタル人民元』から読み解くデジタル通貨の未来
- デジタル通貨のライバルはビットコイン?
- G7に警戒されるデジタル人民元
- 一帯一路構想とは?
- 中国がデジタル人民元を推し進める理由
- デジタル通貨に取り組む中央銀行は全体の86%
- まとめ:『決定版デジタル人民元』を要約・紹介させてもらいました
『決定版 デジタル人民元』から読み解くデジタル通貨の未来
デジタル人民元は、2020年10月から中国の深セン(しんせん)市での社会実験を始めています。
深セン市は中国4大都市の1つで、
- ファーウェイ
- テンセント
といった巨大IT企業の存在している都市であるため、「大規模な実験をするに適している」と判断されたようです。
いまのところは、中国国内だけでの利用となっていますが、(香港の中央銀行である)香港金融管理局は、
「デジタル人民元を、香港やマカオとの取引でも使用できるよう、中国人民銀行と協議している」
と発言し、『通貨をまたいだ取り引き』の実験を検討していることを明らかにしています。
マカオって中国の特別行政区(香港と同じような扱い)だったんですね…。
恥ずかしながら知りませんでした…(仲間求む)
これは、明らかに
- デジタル人民元で貿易をするためのシミュレーション
であり、
- 将来的には、デジタル人民元を世界に普及させていく
という狙いがあります。
ちなみに、
「『世界で普及する通貨』って、ビットコインが既にあるんじゃないの?」
と思う方もいるでしょうから、そこにも少し触れていきましょう。
デジタル通貨のライバルはビットコイン?
いまでは、中国以外の中央銀行でも『デジタル通貨の発行』が検討されているわけですが、そのきっかけは『ビットコインの登場』でした。
『ビットコインが普及して、各国の通貨を無視して様々な取引が行われるようになる』といった事態を懸念して、デジタル通貨の発行を急いだわけです。
しかし、ビットコインは価格がまったく安定しないため、
「実際に運用されるレベルには到達しないだろう」
と判断されると、各国はデジタル通貨の議論をペースダウンしていきました。
しかし、2019年にフェイスブックがデジタル通貨「リブラ」の計画を発表されると、その実用性の高さからG7は強く警戒しました。
というのも、リブラは『グローバル・ステーブルコイン』と言われ、
- さまざまな主要通貨の価値と連動するデジタル通貨
であったためです。
つまり、
- リブラは、(ビットコインとは違い)価値が安定したデジタル通貨
であったわけです。
そして、G7はそのリブラが発行されることによる影響を懸念し、
「リブラのような世界で広く利用でき、価値の安定しているデジタル通貨は、法律・規制監督上の要件に十分対応するまでサービスを開始するべきではない」
とけん制しました。
そのけん制によってリブラ計画は方向修正(ひとつの通貨と連動)をせざるを得ませんでした。
(名前も『リブラ』から『ディエム』に変更)
そして、G7のリブラへの警戒が薄くなったことで、次の警戒対象にデジタル人民元が浮かび上がってきたわけです。
G7に警戒されるデジタル人民元
G7の後の記者会見で、麻生財務大臣は
「透明性や法の支配、健全な経済ガバナンスへのコミットメントが重要という認識を示した。」
「これは中国も含めた(中銀デジタル通貨)導入の動きを念頭に置いたものだ。」
と発言し、中国をけん制しました。
とはいえ、これは『世界経済の安定』をターゲットにした発言であるため、中国が
「デジタル人民元は国内での使用を想定したものだ。」
「国際組織からのデジタル通貨の抑制は、内政干渉だ」
と言われてしまえば、G7はデジタル人民元を否定することはできません。
よって、中国はいまでもデジタル人民元の発行に向けて、ちゃくちゃくと検証、準備を進めることができているわけです。
また、先進国からデジタル人民元を拒否されたところで、中国にとっては想定内のことでしかありません。
というのも中国は、『一帯一路構想(現代のシルクロード的なモノ)』を進めており、『一帯一路構想』の中ではデジタル人民元の使用をできると考えています。
一帯一路構想とは?
『一帯一路構想』は、アジアからヨーロッパ、アフリカ大陸を結ぶ経済圏をつくる構想で、主に新興国を中心に参加国がひろがりつつあります。
一帯一路構想は、2013年に中国の習近平国家主席が発表したモノで、
- 2016年時点の参加国は、64か国
- 参加国の総人口は、32億人
- 名目GDPの合計は、世界全体の31%
と超巨大な経済圏となっています。
さらに、現時点でもこれだけ巨大な経済圏となっているわけですが、参加国に多い新興国は、先進国よりも高い成長率となっているため、日に日に影響力が増していくことが確実です。
こういった点からも、
- 中国は、まず一帯一路構想の中でデジタル人民元の普及を狙っている
わけですし、
- G7などから、デジタル人民元はから警戒されている
わけです。
さて、続いては『中国がデジタル人民元を推し進める理由』を見ていきましょう。
中国がデジタル人民元を推し進める理由
記事の冒頭でも書いた通り、中国が輸入するケースの92.8%はドルでの取引となっています。
その理由は、
- ドルを使用しない国同士でもドルを仲介して取引することで、手数料を抑えられる
ためです。
具体的には、『ロシア(ルーブル)』が『中国(人民元)』にお金を支払う取引であれば
- ルーブル → ドル → 人民元 と交換して支払われる
ことになります。
これは『ドルと他通貨を交換する手数料が安い』ためで、『ルーブル→人民元』と直接交換するよりも、ドルを仲介させた方が安く済むためです。
つまり、
- アメリカが関係のない取引であっても、アメリカが関わってくる
という状況にあるわけです。
また、異なる国でドルで決済するケースの多くは、SWIFT(国際銀行間通信協会)を経由しておこなわれているわけですが、
SWIFTは国際機関でありながらもアメリカの圧力に屈しているように見えるケースが多々あり、中国にとっては信頼できる機関ではありません。
実際に、アメリカがイランなどへの経済制裁を下す時には、『イランをSWIFTから脱退させる』という手段を使いましたが、これは『アメリカの独断』にも近い判断によって行われていました。
米中が対立していることは誰が見ても明らかで、
- これからの展開によっては、アメリカが『中国のSWIFT脱退』という武器をちらつかせてくるかもしれない
と中国は警戒しているわけです。
ちなみに、中国はこの状況を打破すべく、
- 2015年にSWIFTに代わるCIPS(国際間の銀行決済システム)を導入
し、アジア各国や(アメリカに敵対する)ロシアなどを参加させることに成功しています。
しかし、2019年時点で、
- 1日あたりの決済額は、SWIFT:5兆~6兆ドル、CIPS:0.02兆ドル
と、ごくわずかです。
そこで、中国はデジタル人民元に大きな期待をしているのではないかと考えられます。
ちなみに、『アメリカのSWIFTを操った経済制裁』には、EUなども懸念しており、多くの国が独自のデジタル通貨の発行に向けて動いています。
デジタル通貨に取り組む中央銀行は全体の86%
2020年に各国の中央銀行に対して
「3年以内にデジタル通貨を発行する可能性はあるか?」
というアンケートを取ったところ、21%がYESと回答しました。
さらに、
「中央銀行が発行するデジタル通貨の関する業務(調査や研究など)をしているか?」
という問いに対しては、およそ86%がYESと回答しました。
つまり、
- ほとんどの国がデジタル通貨について興味を持ち、実際になんらかの対応をしている
という状況にあるわけです。
これは、
- 民間のデジタル通貨に対抗するため
- デジタル通貨技術の標準化争いのため
- ユーザの利便性向上のため
といった目的がありますが、それだけでなく、
- ドルによる支配から逃れるため
という目的もあります。
というわけで、世界全体で見ても『デジタル通貨の発行に前向き』な状況にあります。
しかし、アメリカはそうではありません。
というのも、アメリカは『世界の基軸通貨であるドル』を支配しており、これに代わる可能性のあるデジタル通貨(例え『デジタルドル』であったとしても)が発行することは、ドル覇権に崩してしまうリスクがあると考えているためです。
具体的には、デジタル通貨が流通するようになると(上でも書いた)
- SWIFTを通してドルの流通をコントロールすることで、経済制裁を行う
といった手段が取れなくなる危険性があり、アメリカにとっては都合が悪いのです。
とはい、アメリカも一枚岩とは言えず、
2019年に財務長官が「5年以内にデジタル通貨を発行する必要はないとの認識だ」と発言したかと思えば、
2021年にFRB議長が「デジタル通貨は、優先度の高いプロジェクトだ」と発言しまし、
- デジタル通貨に対する政府とFRBの意見が違う
という状況にあります。
今後、アメリカがどういった決断を下すかは分かりませんが、間違った選択をすればデジタル人民元に通貨覇権を奪われてしまうかもしれません。
これからの米中の対立は、『貿易』だけでなく『デジタル通貨』にも注目する必要がありそうです。
まとめ:『決定版デジタル人民元』を要約・紹介させてもらいました
というわけで、著書『決定版デジタル人民元』を要約・紹介しつつ、考察させてもらいました。
全体をまとめると、
- 中国は、主要国家初の中銀によるデジタル通貨発行を狙っている
- 中銀デジタル通貨が意識しているのは、Facebookによるディエム
- デジタル人民元は、G7から警戒されており、一帯一路構想の中で広げる算段
- 世界の中銀のほとんどが、デジタル通貨を検討している
- 今後、デジタル通貨による覇権争いが激化していくと思われる
といった感じになります。
この本を読んでいて
- ビットコインのような仮想通貨は、既にライバルですらないんだな~
- 『地味な存在』と思っていたディエムがしっかりと警戒されていたんだな~
- やっぱり通貨に必要なのは、『安心』『安定』なんだな~
- そう思うと、デジタル人民元が先進国で使われる可能性は低く、新興国で広まっていきそうだな~
- そうすると、先進国 vs 新興国 になるのなぁ…
と思いました。
まだまだ戦いは始まったばかりで、結果を予想することはできませんが、とりあえずは2022年2月の北京オリンピックあたりの記事に注目ですね。
人権問題などで、オリンピックがぽしゃったら笑ってしまいますがw
本記事の内容が、本ブログの賢明なる読者達に届けば幸いです。
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