「政府の赤字は、国民の黒字である」
「アメリカや日本は、いくら国債を発行しても破綻しない」
と説く、MMT(モダン・マネー・セオリー:現代貨幣理論)についてご存じでしょうか?
MMTのことをざっくり説明すると、
- 自国通貨建てであれば、どれだけ国債を発行しても(政府がどれだけ大きな借金をかかえても)財政が破綻することはない
という理論のことで、日本では
「政府の赤字が(国債を発行しすぎることによって)ふくらみすぎていてヤバい」
という考え方が主流である(あった?)ことから、MMTが話題となった2019年ごろには、マスコミやエコノミストなどから袋叩きにされた考え方です。
しかし、アメリカでも注目は大きく、2020年6月には『財政赤字の神話』というMMTを主張する著書がNYタイムズのベストセラーに選ばれました。
実際に、アメリカで新型コロナ対策のために、(過去にないレベルの)巨額の経済支援策を立て続けに行うことができているのは、MMTを参考にしているからではないかと考えられます。
しかし、MMTのベースはケインズ経済学から生まれた歴史あるモノですが、いままで現実の政策に活かされてきたわけではなく、まだ未知数といえる理論でもあります。
つまり、
- MMTにのっとって、大量に国債を発行、巨額の経済対策を続けていたら、取返しのつかない事態になってしまった。
という問題が発生する可能性は十分に考えられるわけです。
そこで、MMTの基本を解説している著書『MMTによる令和「新」経済論 著:藤井聡』を通してMMTのことを理解し、今後のアメリカ経済、ひいては世界経済を占うことができる知識を身に付けていきたいと思います。
<目次>
- MMTの定義
- 日本政府が破綻することはないという「事実」
- 日銀が『最後の貸し手』となる法律がある
- MMTの主張
- 民間の黒字 = 政府の赤字
- 財政収支の大小ではなく、インフレ率を基準に財政収支を決めよ
- 『財政赤字の政治経済学』
- まとめ:『MMTによる令和「新」経済論』:MMTが世界経済の未来を左右する、かもしれない
- とはいえ:MMTの実力はまだ未知数
MMTの定義
まず、『財政政策論としてのMMTの定義』を紹介すると、
国債発行に基づく政府支出がインフレ率に影響するという事実を踏まえつつ、「税収」ではなく「インフレ率」に基づいて財政支出を調整すべきだという新たな財政規律を主張する経済理論。
となります。
わかりやすく整理すると、
- 政府が目指すべきは『適切なインフレ率』である
- 『適切なインフレ率』にするためには、大きく財政支出する(国債を大量に発行する)べきだ
ということになります。
昨今の日本では、『プライマリーバランスを黒字化する』という目標がかかげられていますが、これとは真逆ともいえる考え方です。
『プライマリーバランスを黒字化する』とは、『国の借金を減らしていく』ことを指しているわけですが、
『MMT』では、『国の借金の増減はどうでもよく、適切なインフレ率になるよう借金すればよい』という考え方になります。
とすると、真っ先に浮かんでくるのは
「適切なインフレ率になるまで国債を発行し、それによって借金が増え続けたら、いつか政府が破綻するのではないか?」
という疑問ではないかと思います。
とくに『日本政府は大量の借金をかかえている』のにも関わらず、『インフレ率が低い(ときにデフレ)』という状況であることから、
「インフレになるまで借金し続ければいい!」
と聞くと、
「トンデモないレベルの借金をすることになり、トンデモないことになるのではないか?」
と想像してしまいます。
しかし、『MMT』の考え方からは
「日本政府が日本円の国債をいくら発行しても、破綻してしまうことはあり得ない」
と言います。
日本政府が破綻することはないという「事実」
繰り返しになりますが、MMTの重要なポイントのひとつは、
- 政府が、自国通貨ての国債で破綻することは、事実上ありえない
という考え方です。
この考え方は
- 日本政府は、日本円での借金をかかえている
- 日本円は日銀が発行するものである
- 日銀は、日本政府の事実上の子会社である
という実状であることから、
- 日本円の借金がいくら増えたところで、政府自身が日本円を発行すればよいだけ
と言えるためです。
この考え方は、「分かるような、分からないような…」というのが正直なところかと思います。
それは、日本では、
- 学校の教科書にも「国の借金が1000兆円を超えてやばい!」と書かれている
- 消費税を増税をしてまで、国の借金を減らそうととしている
- 緊縮的な財政をして、国の支出を減らそうとしている
といったことが『正しい行為』として繰り返しのように報道されており、『国の借金=悪』という認識が広がっているためかと思います。
この『国の借金を減らそう』『税収を増やそう』は財務省を中心に広げられてきた考え方なわけですが、その財務省ですら
「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」
と、明記する公式文書を発行しています。
『デフォルト』とは『国債による借金が返せない=破綻』のことを指していますので、税収を増やそうとし(MMTとは反対の考え方をしている)財務省ですら、
- 国債を発行し続けても破綻することはない
と認めているわけです。
とはいえ、普通であれば「そういわれましても、本当に破綻しないんだろうか…?」と疑問に思うかと思いますので、その『破綻しない理由』を詳しく見ていきましょう。
日銀が『最後の貸し手』となる法律がある
上で書いた
- 日本円の借金がいくら増えたところで、政府自身が日本円を発行すればよいだけ
とは、
- 政府がお金を調達するために、国債を発行する
- 発行した国債を、実質的政府の子会社である日銀が買う(日銀がお金を生み出す)
という行為を指しており、これによって政府はいくらでも『国債を発行=お金を調達』することができるわけです。
しかし、現実ではこの『日銀が国債を(直接)買う』行為は基本的には使われてはおらず、あくまでも『緊急時にはこういった手段も取れる』という取り決めになっています。
この『日銀が国債を(直接)買う』という行為は、日本ではタブー視されており、なかには『禁止されている』と勘違いしている人すらいますが、日銀法にしっかりと
内閣総理大臣及び財務大臣の要請があったときは(…)当該要請に応じて特別の条件による資金の貸し付け(等の)(…)業務を行うことができる。
と明記されています。
つまり、
- 経済的に大混乱が起き、国債を買ってくれる(お金を貸してる)人が現れない
といった事態となったとしても、
- 日銀が最後のお金の貸し手となれる
わけで、
- 日銀は、日本円をいくらでも発行できる
ことから、
- 日本政府が、日本円の不足によって破綻することはありえない
と言えるわけです。
であるのにも関わらず、日本政府は借金が増えることを懸念し、『プライマリーバランスの黒字化』という目標を立てているわけです。
その状況に対して『MMTによる令和「新」経済論』では、次のように警告しています。
MMTの主張
政府は、自国通貨建ての借金で破綻することなど考えられないのだから、借金したくないという思いに囚われて、政府支出を抑制するのはナンセンスである。
だから政府の支出は、借金をどの程度以下に抑えるかということを”基準”にしてはならない。
何か別の、国民の幸福に資する”基準”が必要である。
「政府の借金を減らそう(プライマリーバランスを黒字化しよう)」という目標は、
- 国民からあつめる税金を増やす
- 政府の支出を減らす
という、『国民にとってはマイナスな行為』をすることでしか達成できず、
- 政府の借金の大小は問題ではない
というMMTの考え方にのっとれば、『プライマリーバランスの黒字化』という目標は
- 政府の「借金を減らしたい」という自己満足のために、国民を貧しくしている
と言えるわけです。
『政府の借金が減った』という事象と『国民が幸せになる姿』はまったく重ならず、プライマリーバランスが黒字化したところで、国民は
「なんかよく分からないけど、政府の借金が減りだしたらしよ」
という感想を持つだけで、なんのメリットもありません。
これは、よく考えればあたり前の話ですが
- 民間の黒字 = 政府の赤字
であることからも間違いなさそうです。
民間の黒字 = 政府の赤字
『誰かの黒字は、誰かの赤字』であることは考えるまでもなくあたり前のことですが、世の中を『民間』と『政府』とに大きく区切ってしまえば、
- 民間の黒字 = 政府の赤字
であることは間違いなく、逆に言えば
- 政府のプライマリーバランスを黒字化する = 民間が赤字化する
ことも確かな事実です。
よってMMTでは、
政府の財政赤字を、民間市場への資金注入量の拡大を意味するものとして、「肯定的」に捉える
としているわけです。
とはいえ、「借金を肯定的にとらえる」という理論は、なかなか理解しづらいことかと思います。
というのも、一般家庭における借金に対する考え方は、
「○○を超えるほど借金をしたらヤバい」
と上限を意識することはあっても
「○○を下回るほどしか借金してなかったらヤバい」
と考えることはありませんが、MMTにおける政府の借金は真逆の考え方になるからです。
それは、
- (繰り返しになりますが)MMTでは、政府の赤字の拡大を問題としていない
わけなので、
- 政府の財政支出(政府の赤字)は、『経済が衰退しないレベル』が最低ラインとなる
ためです。
つまり『ある程度は借金し続けなければならない』と考えるわけで、これがMMTの大きな特徴のひとつです。
とはいえ、
「借金の上限がないから、ひたすら財政出動をすればいい」
というわけではなく、『適切な財政出動のレベル』は存在しており、それが、
- インフレ率が2~4%に収まる程度
とされています。
財政収支の大小ではなく、インフレ率を基準に財政収支を決めよ
昨今の日本経済は停滞していることは周知の事実で、1995年~2015年までの名目GPDの成長率は、
- 世界平均は+139%
- 日本は最下位で唯一のマイナスの-20%
- 次に低い成長率のドイツは+30%
と、圧倒的に最下位となっており、その理由のひとつはインフレ率の低さ(デフレ)であることは間違いありません。
しかし、政府が財政出動をふやせば(民間の黒字をふやせば)、景気は改善し、インフレ率が上昇していくことが予想されます。
アベノミクスでは『2%程度のインフレ率』を目指していたのにも関わらず、それを達成できなかった原因のひとつは、
- 『プライマリーバランスの黒字化』を目標とし、税支出動が十分でなかった(さらに増税もした)
ことだと言えます。
デフレは経済を弱体化させ、過度なインフレは経済を混乱させることになりますので、
- インフレ率が2~4%程度に『安定的』に収まるよう、財政収支をコントロールする
というのが、MMTにおける『健全な財政』ということになります。
といった感じで、
- 政府の借金は悪ではない
- 必要なだけ財政出動をすればよい
と繰り返し主張してきましたが、理屈としては納得できたとしても
「でも、やっぱり借金は悪いモノだと思うんだよなぁ…」
と思う方も多いかと思います。
その背後には、1986年にノーベル経済学を受賞したジェームス・ブキャナンの思想があります。
『財政赤字の政治経済学』
ブキャナンの『財政赤字の政治経済学』の理論には、
民主主義においては、政治家が人気取りの公共事業などの「バラマキ」に走りがちで、その結果、財政赤字が膨らんでしまう
という考え方があります。
『政治家の人気取り』とは
- 民衆が喜ぶ政策 = 政府が民衆にお金を配る行為
と言え、
- 民衆の望む政策をすることで、財政赤字が膨らんでしまう=悪政
としたわけです。
これを、『MMTによる令和「新」経済論』では、
民衆の主張や要求を一切無視して「財政規律」を守ることこそが、国全体を守る上でとても大切な「道徳的に正しい行為だ」という風潮が、先進国のエリート達の「常識」になってしまったのだ。
住民たちは皆バカで、そんな住民が好きな財政拡大は、不道徳なものだ、というイメージが、日本のインテリ層の「常識」になってしまったのである。
と分析し、「これが、いまの『政府の借金=悪』という考え方に発展した」と主張してします。
この考え方が広がってしまったがゆえに、2019年ごろ、MMTに注目が集まった際に、
- 「財政赤字がいくら膨らんでも良い」などという、『トンデモ理論』がでてきた
と、メディア関係者から激しくバッシングされたわけです。
しかし、現実では経済覇権国であるアメリカでMMTに対する注目が集まりつつあり、いまやMMTは『ただのトンデモ理論』と言えなくなってきています。
『MMTは新しい理論』と考えられていることも、MMTにたいして『アヤシイ』という先入観を生み出す原因となっていそうですが、実際のところMMTによる
- 財政赤字の拡大が、経済成長につながる
という考えかたは、ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)の主張がベースとなっているので、『MMTは歴史のある理論』であることは間違いありません。
よって、「なんかよく分からないけどアヤシイ…」と思わず、冷静に判断する必要がありそうです。
まとめ:『MMTによる令和「新」経済論』:MMTが世界経済の未来を左右する、かもしれない
といった感じで、著書『MMTによる令和「新」経済論』をベースに、MMTについて解説させてもらいました。
昨今、注目の集まりつつあるMMTのことが多少でも理解頂けたのであれば幸いです。
多くの人が『政府の借金=悪』と考える原因の一端には、
- 政府は、民衆からお金(税金)をあつめ、そのお金で活動する。という勘違い
があります。
そうではなく、実際は
- 政府は借金をして活動し、その後に税金を集める
という順になっていますので、『政府に借金があるのはあたり前』であることを理解しておく必要があります。
これは、新しい政府(通貨)が登場した瞬間を考えれば分かることで、例えば、
- 新政府が公共事業(道路や建築物の建造)を計画
したとすると、
- 新通貨を発行し、これを民衆に渡すことで建築を依頼する
ことで、公共事業を進めます。
この『民衆に渡された通貨』は、
- 公共事業をやってもらったお礼
- つまり、政府の民衆に対する借り
- つまり、通貨は『政府は、民衆に対して借りを返さなければならない』という証拠
- よって、『通貨を発行して民間に渡した』ということは『政府は借金』したということ
となりますので、『借金をすることで、政府が成立する』のは明らかです。
とはいえ:MMTの実力はまだ未知数
といった感じでMMTに対して好意的な記事を書いてきましたが、
- MMTの実力はまだ未知数
というのが正直なところです。
アメリカ政府が、コロナ対策として巨額の財政支出ができているのは、『MMTが背後に存在している』という理由もあると考えられますが、バイデン大統領がMMTの支持を表明しているわけではありませんし、
- (自国通貨建ての国債をつかって)政府が巨額の赤字をたれ流し続ける
という前代未聞の行為が、どのような影響を及ぼすのかは(理論上は『問題ない』としていても)分かりません。
とくに『経済』というのは、科学と違って『実証実験できるケースがほとんどない』ため、経済学は『机上の空論』となりがちです。
まずは、巨額な借金をかかえるアメリカの動向をうかがい、『MMTの確からしさ』を見ていければと思います。
(同じく巨額な借金をかかえる)日本が大好きな筆者は「MMTが正しい理論であってくれー」と願うのでした。
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