- 子どもを勉強させるために、ご褒美でつってもよい
- 自尊心を高める教育が良いわけではない
- 子どもがゲームをしても暴力的にはならない
と、世間一般とは違うデータを紹介する著書『学力の経済学』を要約して紹介していきたいと思います。
著者の中室牧子さんは『教育経済学』を専門にする経済学者で、『経験論』で語られることの多い教育を、データを用いて経済学的に分析し「本当に効果のある教育とは?」を追求しています。
『学力』と聞くと、「人生にとって学力が全てではない!」と言いたくなりますが、『学力の経済学』でいう『学力』には、
- やる気があるか
- 忍耐力はあるか
- リーダーシップがあるか
といった非認知能力も含まれており、例えば『幼稚園の時に受けた教育の差』が
- 40歳時点での平均年収
- 40歳時点の逮捕率
- 27歳時点での持ち家率
といったものにどういった差を生み出しているか、すなわち『人生で成功できるかどうか』も『学力』という言葉の中に含まれています。
『教育』について議論されるときには、
- 教育評論家
- 子育て専門家
- 子どもを東大に入れた親
などといった人たちの経験論(と感情論)で語られることが多く、それが世間にも受け入れられています。
つまり、『科学的な根拠がない教育論』が横行しているわけです。
そこで筆者の中室さんは、科学的な根拠によって明らかにされた『知っておかないともったいないこと』を紹介するべく、『学力の経済学』を書きました。
というわけで、この記事では、『根拠のある効果的な教育』を少しでも多くの人に知ってもらうべく、著書『学力の経済学』を紹介させてもらいたいと思います。
<目次>
- <目次>
- 子供を『ご褒美』で釣ってはいけないのか?
- ご褒美で釣っても、勉強する楽しさは損なわれない
- 自尊心が高ければいいわけではない
- 努力をほめるべし
- お手軽な教育に効果はない
- 「勉強しなさい」に意味はない
- 子どもの教育は早ければ早いほどいい
- 非認知能力の重要性
- 非認知能力の鍛え方
- まとめ:科学的に実証されている教育を知ろう!
子供を『ご褒美』で釣ってはいけないのか?
冒頭で
- 子どもを勉強させるために、ご褒美でつってもよい
と紹介しましたが、『勉強のインプット』にご褒美を与えなければならないことに注意が必要です。
『勉強させるためのご褒美』には、
- テストでよい点を取ったらご褒美をあげる:アウトプットに対するご褒美
- 本を一冊読んだらご褒美をあげる:インプットに対するご褒美
という2パターンが考えられます。
しかし、ハーバード大学のフライヤー教授の行った
- 約250校の小学2年生~中学3年生が対象
- 参加者は約3万6千人
- 実験費用は94億円
という大規模な実験によると、『インプットにご褒美を与えたほうが、学力の向上につながった』という結論が出ています。
そして、数あるインプットの中でもっとも効果が大きかったものは『本を読むことに対するご褒美』でした。
そして驚くべきことに『アウトプット(テストや通知表の成績)に対するご褒美』を与えられた子供たちの学力は、まったく改善しませんでした。
これは、『アウトプットに対するご褒美』を与えられたグループが、『学力を上げる手段』ではなく『よい点を取るための手段』を採用したことに原因があります。
具体的には、『アウトプットに対するご褒美』を与えられたグループは、「どうすれば、もっとご褒美がもらえると思いますか?」という質問に対して、
- テストの際にしっかりと問題文を読む
- 回答を見直す
といった、テストで良い点を取るための(小手先の)テクニックを挙げており、本質的に学力を向上させるための方法にまで考えが及んでいなかったことが分かります。
よって、子供の学力を上げるには、「どうすれば学力が向上するのか」という方法を教え導く必要があることが分かります。
というわけで、『インプットにご褒美を与えると、学力が向上する』ことがハッキリしたわけですが、
「ご褒美で勉強させると、子供の『勉強することが楽しい』という気持ちがなくなっちゃうんじゃないの?」
という疑問を持つ方も多いと思うので、そこについても解説していきましょう。
ご褒美で釣っても、勉強する楽しさは損なわれない
先にあげたフライヤー教授の実験の中では、
「ご褒美をあげても、内的インセンティブ(自ら進んで勉強する意欲)は失われない」
という結果も得られています。
また、
「ご褒美には現金を与えてしまうのはちょっと…」
という思いのある方もいるかと思いますが、
ご褒美をあげるのと同時に貯蓄用の銀行口座を作ったり、家計簿をつけるといった金融教育をすることで、
- きちんと貯蓄するようになった
- 娯楽や衣服、食べ物に対して使うお金が減った
というアンケート結果が得られています。
つまり、インプットにご褒美を与え、金融教育を同時に行うことで、
- 学力が向上する
- 勉強に対する意欲は減らない
- お金の価値、貯蓄することの大切さを学ぶ
という、素晴らしい結果がえられるわけです。
さて続いては、当たり前のように語られる「子供はほめて育てるべき」という考え方について検証していきましょう。
自尊心が高ければいいわけではない
「日本には自尊心の低い子が多いので、褒めて育てて自尊心を高くすることが大切だ」
「自尊心が高まることで、自信をもってチャレンジできるようになり、学力も向上する」
とはよく聞く話かと思いますが、1986年からカリフォルニアで行われた大規模研究によって
- 自尊心が高まったからといって学力が向上するわけではない
- 自尊心が高まっても、社会的リスクを避ける能力が向上するわけではない
という結果が得られています。
学力に関しては、
- 自尊心が高いから学力が上がるのではない
- 学力が高いから自尊心も高いだけ
という『原因』と『結果』が反対になっていることが結論づけられており、それどころか
- 成績の悪かった学生に対して、自尊心を高めるような介入をしたことで、学生の成績はさらに悪化した
という結果がでています。
というのも、自尊心が高まった学生は
「成績は悪かったけど、まぁいいか」
と考えるようになり、つまりは、
- 自尊心を高める教育は、悪い成績を取ったことを反省する機会を奪ってしまう
こととなり、ひいては
- 自分に対して根拠のない自信を持つようになってしまった
といった結果を招きました。
ここでは、学力を対象にした実験を行っていますが、むやみに自尊心を高める教育をすることは、実力の伴わないナルシストを育てることでもあります。
そして、そのような人物が社会に出てからどうなるかは、ある程度は予想できます。
とはいえ、「褒めるのはダメ!」と言っているわけではなく、ほめ方を工夫すれば学力向上につながることも分かっています。
努力をほめるべし
子どもをほめる時には、ざっくり言うと
- 「頭がいいね」と能力を褒める
- 「よく頑張ったね」と努力を褒める
の2パターンがありますが、「よく頑張ったね」と努力をほめる方が効果的であることが分かっています。
コロンビア大学のミュラー教授の実験によると、
『子どもの能力を褒めると、子どもは勉強に対する意欲を失い、成績が低下する』
という結果が得られています。
というのも、努力を褒められた子どもたちは、
- よい成績が取れたのは、努力したからだ
- 悪い成績を取ってしまったのは、努力が足りなかったからだ
と考えるのに対して、能力を褒められた子どもたちは、
- よい成績が取れたのは、才能があるからだ
- 悪い成績を取ってしまったのは、才能がないからだ
と考え、悪い点をとったとしても、「才能がないなら勉強しても無駄だ」と、努力を放棄する傾向にあったためです。
よって、子供をほめる時に、
「よく頑張ったね」
と努力をほめることで、さらなる努力を引き出し、たとえ難題にぶつかったとしても「努力すれば解決できる」と考える子どもを育てることとなるわけです。
さて、続いては「効率よく子供を育てるためには」というテーマについて見ていきましょう。
お手軽な教育に効果はない
最近では聞く機会は減ってきましたが、
- ゲームやテレビが子どもに悪影響を及ぼす
という考えがあります。
しかし、シカゴ大学のゲンコウ教授や、ハーバードのクトナー教授の実験によると、
- テレビやゲーム「そのもの」による負の影響は小さい
- それどころか、ストレス発散や学力向上に役立っている
という結論が出ています。
さらに言うと、
- テレビやゲームによって時間を取られることは、勉強す時間を減らすことになる
という考えに対して、
- テレビやゲームの時間を1時間減らしても、2,3分しか勉強時間は増えなかった
という、「テレビやゲームの時間を制限して、勉強する時間を増やそう」と考えている親にとっては残念な結果がでています。
そこで出てくる「じゃー、どうすれば勉強時間を増やせるのよ?」についても、『学力の経済学』では答えを出してくれてます。
「勉強しなさい」に意味はない
多くの親が子どもに言う「勉強しなさい」という言葉には、勉強時間を増やす効果はありません。
どころか、
- 母親からの「勉強しなさい」という言葉によって、勉強時間が減る
という結果すらあります。
そこで、効果的な方法として、
- 親が勉強を見ている
- 勉強する時間を決めて、守らせている
という方法が有効だと明らかになっています。
特に、
- 女の子に対しては、母親がかかわり
- 男の子に対しては、父親がかかわる
ことで、大きな効果がでることが分かっています。
さて、ここまでで「どうすれば子供の学力を向上させられるか?」について取り上げてきましたが、次には「いつ頃から子供に教育をすればいいのか?」を見ていきましょう。
子どもの教育は早ければ早いほどいい
ちょっと考えれば分かることですが、
- 子どもに対する教育は、早ければ早いほど効果が大きい
ということがハッキリしています。
で、あるのにも関わらず、親が子どもへの教育に力を入れる時期は、『受験の前だけ』という、比較的に子供が成長してからのケースが多いです。
そこで、幼児教育の重要性を実証すべく、シカゴ大学のヘックマン教授らは『ペリー幼稚園プログラム』とよばれる就学前教育プログラムを立ちあげ、対象者に対して約40年にもわたって追跡調査が行われました。
その結果、幼児教育を受けた対象者は、
- 6歳時点でのIQが高い
- 19歳時点での高校卒業率が高い
- 27歳時点での持ち家率が高い
- 40歳時点での所得が高い
- 40歳時点での逮捕率が低い
という結果となりました。
つまり、
- 幼児期に特別な教育を受けただけで、成人後の人生もうまくいっている
という結果が得られたわけです。
とはいえ、ここで勘違いしてはいけないのは、
- 『ペリー幼稚園プログラム』によって学力(学校の成績)が向上したことで、それ以降の人生も有利に進められた、わけではない
ということです。
非認知能力の重要性
『ペリー幼稚園プログラム』を受けた子どもたちと、そうでない子どもたちの認知能力を比較(IQや学力テストで計測)すると、
- 小学校入学時点では、幼児教育を受けた子供のほうが成績がよい
というあたりまえの結果であったものの、
- 8歳前後には、その差はなくなっていた
という結果が得られています。
言い方を変えると、
- 『ペリー幼稚園プログラム』は、8歳以降のIQ、学力テストの成績に影響を与えない
というわけです。
つまり、『ペリー幼稚園プログラム』を受けた子供たちが、長期にわたって有利な人生を送っていた理由は、『IQや学力テストの成績がよかったから』ではないことになります。
そこでポイントとなるのが『非認知能力』です。
非認知能力とは、
- 自分に対する自信がある
- 意欲的である
- 忍耐力がある
- 自制心が強い
- リーダーシップがある
など、IQや学力テスでは測ることができない能力のことです。
ヘックマン教授らは
「非認知能力が、人生の成功においてきわめて重要である」
と言い、
「『ペリー幼稚園プログラム』によって幼少期に非認知能力が鍛えられた子どもたちは、長期にわたって高い成果を上げていた」
としています。
「非認知能力が将来にどう影響するのか?」を知るのに参考になる事例として、大阪大学の池田教授の研究をあげると、『子どものころに夏休みの宿題を、休みが終わる直前にやった人』は、
- 喫煙、ギャンブル、禁酒の習慣がある
- 借金がある
- 太っている
といった確率が高いといった実績があります。
そして、その非認知能力を鍛えるためには『しつけ』が重要だと『学力の経済学』では解説しています。
非認知能力の鍛え方
神戸大学の西村教授の研究によると、
- ウソをついてはいけない
- 他人に親切にする
- ルールを守る
- 勉強をする
といった基本的なモラルをしつけられた人は、それをまったく教わらなかった人と比較して、年収が86万円高いということが明らかになりました。
しつけによって、子どもの勤勉性を高め、結果として将来の年収を高める結果となっているようです。
また、非認知能力のひとつである『自制心』は、筋トレにって筋肉を太くすることができるのと同様に、トレーニングによって強くできると言われています。
たとえば、先生から「背筋を伸ばすように」と教育され続け、それを忠実に実行し続けた生徒は成績が向上した。という研究があります。
つまりは、
「ご飯を食べるときはヒジを付かないように」
「ご近所さんとあったら挨拶をするように」
「遊んだものは、自分で片づけるように」
といった、あたり前のしつけをするだけで、子どもの非認知能力を鍛えることができるわけです。
また、『学力の経済学』では、非認知能力を鍛える手段として
部活動や課外活動にも注目が集まっています。
他にも、高校生が高齢者にコンピュータの使い方を教えるという社会奉仕活動のように、教室で学んだことを地域社会で問題解決のために生かすような教育や、
アウトドア活動なども有効であると言われています。
といったことを紹介し、
目の前の定期試験で点数を上げるために、部活や生徒会、社会貢献活動をやえさせたりすることには慎重であるべきかもしれません。
学力をわずかに上げるために、長い目でみて子どもたちを助けてくれるであろう「非認知能力」を培う貴重な機会を奪ってしまうことになりかねないからです。
と警告しています。
まとめ:科学的に実証されている教育を知ろう!
といった感じで、『学力の経済学』を紹介させてもらいました。
この記事では、
- インプットのご褒美を与えよう
- 自尊心が高ければいいわけではない
- 努力をほめるべし
- 「勉強しなさい」に意味はない
- 幼少期のトレーニングほど効果が大きい
- しつけによって非認知能力を高めよう
という、子どもの教育に直接役立つ内容ばかりを取り上げさせてもらいました。
とはいえ、あくまでも『○○によって学力が向上した子どもが多かった』というだけで、すべての子どもに対して、これら研究結果が当てはまるわけではないので注意が必要です。
あくまでも、『多くのケースでは、○○のような教育が有効』であることを理解し、自信の教育方針の『参考』にするようにするのが良いでしょう。
なお、『学力の経済学』の後半では、
- 少人数学級に効果はあるものの、費用対効果は低い
- 子供手当で学力は上がらない
- 教員研修の効果は低い
- 教員免許を撤廃すれば優秀な先生が増える
- なぜ日本では教育の研究が進まないのか
- 「手をつないでゴールしよう!」は、平等な心を奪う
という、学校教育や制度の問題点などを取り上げ、「こう変えていくべきだ」という提案もしています。
- どの学校に子供を通わせるか悩んでいる
- 国の教育方針に疑問を持っている
という方にとっては、非常に参考になると思います。
『幼少期の教育が、子どもの人生を決める』と言っても過言ではありません。
そして、ただガムシャラに頑張って子育てしたところで、教育が上手くいくわけではありません。
研究によって裏付けされた『効率よく子育てする術』を学び、活用していきましょう。
(マンガ版もあるので、活字が苦手なかたはそちらをどうぞ)
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