更新日:2021/5/23
近頃話題になることの多い『金利』ですが、分かりづらい点が多くあるため、投資家であっても金利については考えないようにしている方も多くいるかと思います。
しかし、金利の値動きは経済や株式市場へダイレクトに影響をおよぼすものであるため、理解しておく必要があります。
というわけで、本記事では『金利が動くとどうなるか 著:角川総一』の内容を一部紹介しつつ、『アメリカの長期金利が上昇している』という現状について解説したいきたいと思います。
<目次>
金利の変動は世の中のお金の動きを変える
著書『金利が動くとどうなるか』では、タイトルでもある『金利が変動するとどうなるのか?』を、お金の出どころを個人とし、銀行を経由して、企業に至るまでのお金の流れを用いて、以下のように説明しています。
預金金利がたとえば3%から5%に上がったとします。
そうすると「今までより有利だわ」と個人の預金者は考えます。
そして積極的に預金するでしょう。
一方、預金者から3%でお金を預かっていた銀行はこれまで、企業には4%の金利で貸していたとします。
ところが、預金金利が5%になったので、同じだけの収益(1%分)を得ようとすれば、企業には6%で貸さなくてはなりません。
さて、では企業は金利が6%に上がっても今まで通り借りてくれるでしょうか。
「6%だったら借りないよ」という企業が出てきますね。
さてこうなれば預金は増える一方で、企業の借り入れは減ります。
つまり、金融機関を除く民間企業では、すぐに使えるお金の量が減るのです。
これが通貨共有量の減少です。
それとは対照的に、銀行の預金口座の残高がどんどん膨れ上がります。
つまり、金利を挙げれば世の中(民間)に出回るお金の絶対量が減り、したがってそれを使って行われる消費や企業の設備投資が減ります。
つまり『金利が上昇する』ということは、『景気が悪化する』言い方を変えれば『景気の過熱感を鎮静化する』効果があるわけです。
昨今の『アメリカの長期金利が上昇』によって、セクターローテーションが起きています。
つまりは
- 投資家が、グロース(成長)銘柄から資金を引きあげ
- 投資家が、バリュー(割安)銘柄への投資を増やす
ということが起きています。
これは、金利の上昇が
- 借金で新しい事業にチャンレンジするグロース株にとっては不利
- 少ない借金で安定した事業を行うバリュー銘柄にとっては影響が少ない
と判断されているためです。
さて、そんな金利ですが、『発行者(政府など)が決めるもの』と思われがちですが、本書では『金利は決まるもの』として解説しています。
金利は決まるものか、決めるものか?
金利には『住宅ローン金利』『預金金利』などなど色々とありますが、『金利の代表格』とも言える『債券の金利』は、『決まるもの』です。
正確に書くと、債券の金利は『債券を発行する際に発行者が決めるもの』ではあるものの、「金利をこれくらいの水準にしなければならない」ということが発行時の状況から決まってしまっているため、『発行者が金利を決める』ということは困難です。
これは、政府が発行する国債であっても同じことです。
ただし、『政策金利』は例外です。
本書では、
無担保コール翌日物と呼ばれる金利がそれです。
これはもう完全に日銀の強力なコントロール下にあります(昔は公定歩合が政策金利でした。これはいざという時に日銀が民間の金融機関に貸しだす際に適用される金利で、日銀が決めていました)。
現在の政策金利であるコール翌日物という金利は、都市銀行などお金が不足気味の金融機関と、地銀や信託銀行、信金などのお金に余裕のある金融機関が、互いにお金の貸し借りを行う時に成り立っている金利なのです。
そして、その貸し借りの需給バランスを日本銀行が完全にコントロールすることを通じて、コール金利を支配している、つまり政策金利をコントロールしているのです。
と説明しています。
ただしこの政策金利は、そのまま金融機関同士の取り引きで使用される金利となるわけではなく、あくまでも『目標とする金利の水準』でしかありません。
政府が「無担保コール翌日物の金利を引き下げたい」と考えれば、
- 『買いオペ』にて銀行から国債を買い入れ、「低い金利でもいいからお金を貸したい」と思える状況にする
逆に、「無担保コール翌日物の金利を引き上げたい」と考えれば
- 『売りオペ』にて銀行に国債を売り、「高い金利でないとお金を貸したくない」と思える状況にする
ことで、金利をコントロールしています。
そして政府が金利をコントロールする目的は、もちろん景気をコントロールすることにあります。
昨今のアメリカ長期金利の上昇の理由は?
近頃『アメリアの長期国債の金利が上昇している』ことの直接的な理由は、
- 長期国債を売る投資家が多い
ことにあります。
そして、その理由は
- インフレを懸念している投資家が多い
- 景気が回復することに期待している投資が多い
の両方だと言われています。
アメリカのインフレが進めば、アメリカ国債(アメリカドル)の価値が下がるため、アメリカ債券は売られますし、
景気回復を予想するのであれば、アメリカ国債を売り、高いリターンが期待できる商品(株式など)に資金を移していくわけです。
そして、金利上昇に合わせて株価は上昇しているわけですが、前半でも書いた通り、『金利上昇に強い銘柄ほど上昇率が高い』という状況になっています。
よく、『株価と債券価格は逆に動く』と聞くかと思いますが、これは、
- 債券が売られる=金利が上昇する=債券価格が下がる
- 債券を売ったお金で、株式を買う=株価が上がる
というわけです。
しかしいま、アメリカFRB(中央銀行の最高意思決定機関)が長期国債の金利上昇を抑えるべく、大量の国債買い入れをしています。
外部記事:「言動不一致」のFRB、長期金利急騰で2月の国債買入が大幅増
その理由は何なのでしょうか?
FRBが長期国債を買い入れしている理由
基本的には
- 好景気であれば、企業が積極的にお金を借りるので、金利が上昇する
- 金利が上昇すれば、企業がお金を借りなくなり、景気が悪化する
と、循環しています。
つまり、最近注目されることの多い『アメリカの長期国債の金利上昇』に対しては、
- 景気が良くなったことの証明
- このまま金利が上昇すれば、景気が悪化する
という2通りの見方ができます。
よって、景気回復を後押ししたいFRBは、国債の買い入れを通じて金利上昇を抑えにかかっているわけです。
そんな中、アメリカのイエレン財務長官が5月に、
「米経済が過熱しないよう確実を期するには、金利はやや上昇せざるを得ないかもしれない」
「金利の極めて小幅な上昇につながる可能性がある」
と、発言したことで市場に動揺が走り、株価は一時的に大きく値を下げることとなりました。
これは非常に分かりやすい例で、
- 市場が過熱している
- 過熱を抑えるために金利を上げる
- 金利上昇によって株価が下落(過熱感を抑制)する
ということが、「金利上昇を許す”かも”しれない」という発言だけをきっかけにして起きたわけです。
今後もアメリカの動向に注目
先にも書いた通り、
- インフレを懸念している投資家が多い
- 景気が回復することに期待している投資が多い
ことがアメリカの長期金利が上昇=株価が上昇している理由です。
これは、アメリカ政府が経済対策として大量のお金を投入している、投入し続ける予定があることで、そう予想されているわけです。
参考記事:【アポロ計画に匹敵】バイデン政権による超巨額インフラ計画について
つまり、
- 経済対策の縮小や打ち切り(や増税)が決まれば、(状況によりますが)株価が下落する恐れがある
ということでもあります。
もちろん、アメリカ経済が政府の支援なしにひとり立ちできる状況であれば、問題ないわけですが、
政府が「もう大丈夫だ!」と舵を切るタイミングと、投資家が「もう大丈夫だ!」と考えるタイミングが一致するとは限りませんし、
適切なタイミングで支援策が打ち切られたしても、楽観的な投資家(や投機家)が投げ売りをし、一時的に株価が暴落することは十分に考えられます。
よって、株価を追うことはもちろんのこと、『アメリカ政府FRBの金利に対する言動』に対しても注視していく必要がありそうです。
本記事の内容が、本ブログの賢明なる読者達に届けば幸いです。
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